和而不流(和して流れず)

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ポジティブリストの落し穴

早急に厚生労働省は暫定基準の見直しをするべきだ

福島県や茨城県で水道水や農林水産物から「国の暫定基準値を超える高濃度の放射能が検出」と報道されている。決まって「通常の摂取では健康への被害はない」と付言されるものの、日増しに問題とされる産品と地域の範囲が拡がり、飲料水や食品の安全性への懸念と風評被害が深刻になるに違いない。下手をすれば、海外に「日本産はすべて放射能汚染」とされる恐れもある。
平成15年に食品衛生法が改正され、ポジティブリスト制度が導入された。当初、農産物に対する登録農薬の残留基準値の設定が優先されたため、多くが「暫定基準値」のまま施行され、現在に至っている。平成18年、宍道湖周辺で水揚げされたヤマトシジミから暫定基準値を上回る除草剤の成分であるチオベンカルブが検出された時、「暫定基準値を上回る」と報道された。体重50kgの人の1日の最大摂取許容量の180分の1でありながら、個別基準が設定されていないため、暫定基準が適用されたことによって生じた例である。(チオベンカルブについては一昨年、個別基準が設定された。)
食品衛生法に規定するポジティブリストの暫定基準値は、法令改正から8年を経過しているが、個別基準値の設定に関する厚生労働省薬事・食品衛生審議会の審査は遅々として進んでいない。多くは「暫定基準」となっている。官房長官や厚生労働省の広報官が記者会見で「通常の摂取で人の健康に全く問題はない」と強調するのであれば、1日も早く暫定基準を見直しし、個別基準値を設定しなければならない。このままでは、風評被害を防ぐために、関東、東北周辺の農林水産物や水道水のすべてを供給停止にせざるを得ず、深刻な事態となることが予測される。原発事故については、対応が発表されるのみで、事故の影響予測が全く示されないままの環境汚染が報道されたこともあり、現状が継続すれば住民の不安が増嵩し、いらざる混乱の因となるように思う。
非常事態にあるなかで、被災地周辺から提供される安全性に問題がない農林水産物まで廃棄される愚は何としても避けなければならない。「放射能」と聞いただけで危険と応ずる国民の不安は日増しに強まっており、国は、どこまで安全で、どこからが危険なのかを早急に示し、出荷時のモニタリング検査によって安全性を告知するよう指導すべきである。食品の安全に対する対応が遅れると国民の不安は国に対する不信、不満になりかねない。

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