和而不流(和して流れず)

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ストロー現象に立ち向かうためには

松江道路の竣工に思う

「ストロー現象」は、交通網の整備によって交通基盤の「口」に当たる地域に経済活動が集中し、「コップ」にあたる地域の経済活動が衰える現象で、1本の通り道だけで大量の移動が起き、途中の中継地に移動に伴う経済効果がほとんどないのが特徴で、大きくは次の3つのケースが考えられます。
ある交通網の分岐点が発展して分岐先が衰退する。
ある交通網の起点・終点が発展して中継地点が衰退する。
ある交通網の中で規模の大きい都市が発展して小都市が衰退する。

地方都市に商業集積を可能とする背景には、ある程度、交通の不便な環境が起因します。物理的な距離間や情報の非対称性などが存在することによって、各都市の商業集積の立地が許容されるわけですが、距離が縮まり、店舗や商品の情報が入ることで、従来では不可能だったより安く、より良い、より高いブランド価値のある店舗での購買行動が可能になれば、それまで購入していた店舗や商業集積は衰退せざるを得ません。
地方は大都市に通じる高速交通網を整備すれば、企業や学校、大規模店舗などの進出が促進され、さらに観光客が増大するとして道路や新幹線の整備を熱心に要望しますが、開通し、実際に運用が始まると「ストロー現象」で大きな地盤沈下を起こし、目論見とは全く逆に過疎化に拍車を掛けることは少なくありません。また、流通上のネックが解消され、全国規模のスーパー・家電量販店、コンビニエンスストアなどが地方に進出し、消費者が減った地域のスーパーや地元商店街の衰退に追い討ちを受けることも多くあります。
3月30日、中国横断自動車道尾道松江線の松江道路が竣工し、松江から広島までが全面開通しました。関係者の多くは広島地域や四国から松江・出雲地域への移動を期待していますが、この道路は通行区間のほとんどが無料で、むしろ、自家用車、高速バスを利用した週末の広島などへの買い物などが増加する「ストロー現象」が生ずることは容易に想像できます。特に、観光客などは移動時間短縮により、山陽、四国方面からは松江や出雲大社に日帰りするということが十分に可能になるわけですから、今後、尾道松江線の全面開通を控え、しっかりと戦略を考え直して対応する必要があると思います。
コップとなる本県の地域が「逆ストロー」を果たすためには、交通網の整備によって生ずる利点、優位性を最大限活用するための思考が必要で、言うまでもなく新産業の創出や企業内起業、新分野への進出など、従来の発想を超える想像力を発揮することが必要です。また、四季折々に豊饒な山海の食材が獲れる地域性を生かした食の開発や温泉の活用、世界の成長市場であるBRICSの中国、ロシアに面した山陽、四国地域からのゲートウェイ機能の充実などは隣県である鳥取県との協調は欠かせません。
松江道路の通過点となる沿線自治体や路線からはずれる地域の衰退への懸念は大きく、新直轄方式での整備路線についても「有料化すべき」とする意見も理解できます。しかし、一方で、各地域が、それぞれのまちが持つ特性を活かした棲み分けを図ることや農山漁村地域で生活する老若男女の「暮らしから生ずる余禄」を発掘することは地域の魅力と輝きを放つ要諦であり、通過点から目的地となるための取り組みを進めることで活性化を果たすことは十分に可能であると考えます。

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