県議会だより

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平成15年11月議会一般質問(1)

シカ対策について

昭和47年、島根県は野生のホンシュウジカの自然生息地域として島根半島弥山地域約7000ヘクタールをオスジカ捕獲禁止区域に設定し、絶滅のおそれがあるとされるレッドデータブック登載動物のホンシュウジカの保護をはじめました。具体的には、鰐淵寺と日御碕周辺の鳥獣保護区と出雲大社周辺の銃猟禁止区域とともにオスジカ捕獲禁止区域の設定により、メスジカが鳥獣保護法によって狩猟が禁止されていることから事実上この地域はシカのサンクチュアリとなりました。昭和47年からの10年間、シカの捕獲がほとんどされずに保護されたことから相当数の個体数の増加があったと推定されています。
一方で、昭和50年代の初め頃から造林木の剥皮被害が報告されるようになり、出雲市、平田市、大社町の2市1町で被害状況の聞き取り調査が開始され、県は昭和58年から有害鳥獣駆除による捕獲と糞塊法による生息頭数の調査を実施しました。昭和55年に160頭程度だった推定生息頭数(個体数)は昭和60年には359頭とされ、その後、毎年50-90頭の駆除により、弥山地域でのシカの生息は170-240頭に頭数管理をしているとの説明が平成10年ごろまで続きました。この間、何度かの保護区や捕獲禁止区域の設定期間更新時の公聴会や関係者のヒアリングで、県の見解に対する異論が相次ぎました。その結果、平成11年度に実施された赤外線調査では560頭、平成12年の区画法調査では1000頭を超える数値が報告されましたが、県はあくまで糞塊法調査による個体数を優先されたのであります。私たちの度重なる申し入れと、宇都宮大学の小金沢教授の助言により、平成13年から区画法調査の数値が採用されるようになりましたが、糞塊法との数値の格差は何と1:4でした。
野鳥や猪の食害とシカの被害が決定的に違うのは造林木への剥皮です。食害による作物被害は単年ですが、40-60年で有用材となる造林木は剥皮被害を受けるとそこから腐敗がはじまって木材の価値はなくなります。山に杉や檜は立っていてもそれは雑草と同じで何の価値もないただの木でしかありません。被害調査が始まった昭和54年から平成14年までの累計は、568,174千円となっております。ただ、造林木の被害金額は被害年齢木の価格ですから、成木換算すれば、造林地の遺失利益はおおよそこの10倍程度となります。北山のわずか一部の地域での大きな被害をどうすることもできなかった関係住民の苦悩がいかに大きなものかご理解いただけると存じます。
果たして、この間、県の姿勢には住民の切実な声に耳を塞ぎ、行政のメンツを優先させた側面はなかったでしょうか。私は推定生息頭数の公表の推移および糞塊法による個体数調査の方法が適正であったかどうかを質さずにはおられないのであります。
住民から度重なる被害の拡大の申し立てを受けながら有効な対処を怠ったことが山林と山間農地の荒廃に拍車をかけてしまったと思うのであります。いま、島根半島地域とりわけ北山はマツクイムシとシカ被害によって山林は壊滅寸前です。高齢者の多い山間地域の住民の経済基盤を根こそぎ奪ってしまった県の保護行政を悔やんでも悔やみきれません。県はこの被害実態と森林や山間農地の荒廃についてどう捕捉しておられるのかお尋ねいたします。
関係住民や市町の農林関係担当者の認識は捕獲禁止区域の設定によるシカの保護と推定生息頭数調査の瑕疵がシカ被害のおおきな要因の1つと考え、適切な対処を求めてきました。しかし、「シカのような野生生物は民法上の無主物であり、県が野生生物の捕獲を制限したとしても被害に対する責任はない」との見解により、積極的な対策はほとんど講じられることはなかったのであります。私は、この認識の乖離こそがここまで被害を拡大させた原因だと考えています。知事はこうした認識をお持ちでしょうか。また、造林地に立っているおびただしい剥皮被害木の処理、森林の再整備についてどうお考えになっていらっしゃるのかお尋ねいたしたいのであります。
さて、県は本年、野生鳥獣保護管理計画を策定し、弥山地域約7000ヘクタールでのシカの保護個体数を概ね190頭程度とされました。奥山の3000ヘクタールを生息の森として150頭、里山地域となる4000ヘクタールを共存の森として40頭の個体数確保が計画されていますが、その生息に必要な餌場となる森林の面積、およびその整備についてお尋ねいたします。当面の整備として概ね5カ年で予定している事業の内容と期間およびその費用について明確化していただきたいと存じます。また、その事業の主体はすべて県の責任で行われるべきものと考えます。しかし、一方で関係住民の協力が不可欠となりますが、具体的にどのような協力を求められるのかお尋ねいたします。
少し、質問を離れますが、シカ対策を語る上で担当職員で忘れられない人たちがあります。私は平成3年から12年間平田市議会に籍を置きました。その間に鳥獣保護関係で意見陳述の機会が4-5回ありましたが、いつもその場での聴取でしかなく、具体的な施策として取り上げられたのは有害鳥獣駆除にあたる猟友会メンバーで構成される駆除班の手当が1日当たりわずか500円であったものが一般作業員の日当程度まで引き上げられたことくらいしか記憶にありません。 平成12年度に出雲農林振興センターの林業部長に就任された方は、担当職員と一緒にほとんど7000ヘクタールの全域を自ら踏査した上で、荒廃した森林整備のありかたやそれまでの県の保護に不足している要素についても何度も関係者との意見交換に出てくれました。そして、関係住民と農林振興センターの職員とで初めての区画法調査を実施してくれました。実際、泥まみれになりながら1日に急峻な10ヘクタールの荒廃森林を踏査し、シカの個体数をカウントする作業は厳しいものでした。しかし、延べ200人を動員して2000ヘクタールの森林に入り、シカの個体数調査にあわせて弥山地域の森林の状況を見たことは、いま私たちが直面している様々な問題を認識させました。草一つ生えていない森の中や出水、崩落の状況、そこはまさに危機に瀕している森林の姿そのものでした。
またこの調査を共にしたことで、敵対していた行政と関係住民に奇妙な連帯感を生じさせ、「シカは一頭残らず駆除して下さい」と言っていた住民が、いま「被害が減ったと実感できるまで駆除を徹底し、被害の防止対策の強化を約束してくれるならシカの保護に協力する」という姿勢に変化したのです。今年も4回目となる調査はまさにいまの時期に実施されていますが、コンサルタントや学術機関に委託する調査が多い中で、農林振興センターや市町の農林担当職員が実際に関係住民と一緒に山に入り効果を検証するこの姿こそ行政への信頼を醸成させる、まさに百聞は一見にしかずを地でいくごまかしの利かない仕事そのもの、いつしかどこかに忘れてしまった行政のあり方だと思います。
たった1年間の在籍でしたが、林業部長の愚直なまでの地道な仕事ぶりと、加えて、5年間で有効なシカ対策を確立することを約束してくれた当時の林業担当の農林水産部次長への信頼が住民をして「もう1回協力してみるか」と言わしめたのです。取り交わした文書などは何1つありません。ほとんど壊れかけた行政と住民のチャンネルを職員の真摯な対応に住民が「あんたが言うなら協力する」というところま回復させました。しかし、それは県行政への全面的な信頼とは違います。まだまだ行政全体を信頼しているわけではありません。
シカの保護行政は野生生物の安易な保護がいかに大きな犠牲と結果として莫大なコストを伴うことかを示しました。従来のシカの保護、対策は島根県の野生鳥獣保護の失敗例でありますが、幸い、何人かの使命感ある職員の出現と県議会の先輩諸氏のご理解とご提言により平成12年に島根県の鳥獣保護行政は潮目が変わりました。しかし、県はいま「聖域なき歳出削減」を謳い、一方で大規模事業に莫大な予算を注いでいます。シカ対策は結果として森林の整備に関わる自然保護と環境保全であり、自然の力を再生させるための取り組みそのものです。私は島根県の行政がお城を向いて仕事するのか住民を向いて仕事するのか見守りたいと思っています。
質問に戻ります。もう一つ忘れてはならないのが鳥獣保護区および捕獲禁止区域の設定に関わる関係住民の意見聴取の方法および島根県自然環境保全審議会鳥獣保護部会の無責任とも言える答申であります。野生生物の保護に視点をおくあまりに被害の現実を過小評価する傾向が続いています。委員の選考にあたっては選出区分が固定され、利害関係住民から委員が選考されることはほとんどありません。これでは、結果として行政に都合の良い、御用答申しか出されないのが実態で、こうした審議会の委員選考や運営について問題はないのかお尋ねいたします。
最後にいま直面する喫緊の課題についてお尋ねします。数年前からシカの生息範囲は弥山地域から島根半島の東部地域に拡大しました。この生息範囲の拡大に伴う新たな被害発生が報告され始めました。過去の例からすれば、1-2年すれば生息頭数が増加し、被害が飛躍的に拡大するでしょう。いま、この地域の生息調査と徹底的な駆除を実施しなければ島根半島地域の全域の森林が取り返しのつかない状況になります。半島東部は定置網や一本釣り漁業をはじめ採貝、採藻など沿岸漁業の宝庫です。事実、今年は「じんば」と呼ばれる海藻の豊作年ですが、山林の荒廃が進む島根半島西部にそうした便りはありません。いまのうちに、適切な対策の実施が必要ではありませんか、ご見解を伺います。また、最近、この地域にイノシシの目撃情報があります。野鳥にシカ、イノシシとくれば花札の世界ですが、ジョークで終わらないのが鳥獣被害のつらいところです。できるだけ、喫緊の内に関係市町と協議の上所要の対策を講じられるよう希望します。

三浦農林水産部長答弁

シカ対策についてお答えします。
まず、弥山山地におけるシカの生息頭数の推移および調査方法についてであります。弥山山地におけるシカの生息頭数調査につきましては、昭和60年度の調査開始当初は、その時点で最も合理的と考えられた、シカの糞の数で生息頭数を推定する「糞塊法」により実施してまいりました。その結果を見ますと、昭和60年度の推定生息頭数は、359頭であり、その後200頭前後で推移しました。しかし、平成10年度からは増加に転じ、平成11年度には285頭となりました。
当時、捕獲頭数が100頭前後でありながら、依然として造林木への角こすり被害が増加していたことなどから、地元住民の感覚とかけ離れており、実態よりも少ない数値ではないかとの指摘を受け、平成12年度からは、新たに目視による推定方法である「区画法」を加えることといたしました。区画法による調査結果では平成12年度が654頭、平成13年度が804頭となり、住民の皆様からは実感に近づいたとの意見を伺いました。県としても、糞塊法による調査結果とは大きな差を生じたことから、従来の調査方法は実態を反映していなかったと考えております。
今後とも、地元の皆様のご協力もお願いしながら調査の精度を高めるよう努力してまいります。
次に、シカ被害の実態と森林等の荒廃についてであります。
弥山山地におけるシカによる農林作物被害は、平成14年度は約2050万円となっており、近年減少傾向にあるものの、依然として深刻な状況にあるものとにんしきしております。作物別被害を見てみますと、造林木が約1700万円と70%を占め、続いて野菜の約120万円、タケノコの約100万円となっており、森林・山間農地の荒廃につながっているものと考えております。これらの被害対策につきましては、平成7年から県が主体となって、防護柵の設置や造林木へのネット巻きなどの被害予防対策をはじめ、間伐や受光伐などの生息環境整備も実施してまいりました。しかし、依然として新たな被害が発生していることから、引き続き地元のご協力をいただきながら所要の対策を実施してまいります。
次に、特定鳥獣保護管理計画で定めた保護頭数の生息に必要な餌場としての森林の面積、その整備に要する期間、費用、また関係住民に求める協力であります。計画で目標としているシカの生息頭数に必要な餌場としての森林面積については、シカの生態と土地の形状や植生などとの関係が未解明であることから、現時点では算定できる状況にありません。しかしながら、間伐などにより荒廃した森林に日光が当たり下草が生えれば餌場の確保につながることから、現在平成17年までを事業期間とする県営のシカ対策事業により、このような森林整備を進めております。その費用は平成13年度は補正予算を加えて概ね5000万円となっており、平成14,15年度は4500万円程度となっております。今後は、地元のご協力をいただきながら本事業を着実に実施するとともに、事業効果の検証を行いつつ、より効果的な対策についても検討してまいります。
次に、シカの生息範囲の拡大に伴う調査や対象についてであります。
ご指摘のように住民から寄せられる目撃情報等から平田市東部を中心にシカの生息範囲が拡大しつつあると認識しております。このため、昨年度に引き続き本年度も平田市東部で生息調査を実施したいと考えております。また、被害の拡散を防止するため本年度より、特定鳥獣保護管理計画に基づき、弥山山地を除く地域でのメスジカの狩猟を可能とするなど、狩猟の規制を緩和し、捕獲を促進したところであります。このような取り組みに加え、春には東部地域で有害鳥獣捕獲を実施していただくなど、地元のご協力を得ながら、生息域が拡大しないような取り組みを進めてまいります。

澄田県知事答弁

シカの保護や被害対策に対する県と住民との間の認識の乖離についてであります。
弥山山地は県内唯一のシカの集団生息地でありますが、頭数が減少したことから、それまでのメスジカ捕獲禁止措置に加え、昭和47年より「オスジカ捕獲禁止区域」に指定し、狩猟を禁止してきたところです。その後、昭和50年代後半から造林木被害が多く見られるようになったため、昭和60年度より、シカの生息頭数調査を行い、この結果に基づき捕獲などの頭数管理を行ってまいりました。しかしながら、その後被害が一層拡大したため、平成7年度より県が主体となって被害対策事業を実施してまいりましたが、それでも直被害が拡大したことから、シカの生息頭数調査の結果が現地の実感と乖離しているとの意見が寄せられました。このため、平成12年度より住民の皆様のご協力をいただきながら新たな調査方法を導入し、万全を期すことといたしました。その結果は、シカの生息頭数に関する住民の皆様の実感により近いものでした。このため、結果として、従来の調査方法が不十分であり、このことが対策の遅れを招き、被害の拡大につながったものと考えております。今後は、単独の調査方法に固執することなく、住民の皆様のご意見も大いに参考とし、より迅速な対応に努めてまいります。
剥皮被害木の処理、森林の再整備についてでありますが、シカの角こすりによる剥皮被害の状況や森林の荒廃の状況につきましては、これまで、被害を受けた造林木は、変色により木材としての価値が無くなる、あるいは繰り返し被害を受けると、枯れてしまうことがある等の報告を受けております。このような被害は長年にわたり続いていることから、事態は深刻であると認識しており、被害木の処理や植栽などの必要性を感じております。このため、平成7年より県が主体となって、間伐によるシカの生息環境整備や防護柵の設置による被害防止対策などを実施しておりますが、今後とも地元のご協力をいただきながら、被害を受けた森林の再整備に努めてまいります。

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