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少子化、高齢化、過疎化など人口減少の要因にはこと欠かない島根県ですが、定住人口の減少による活力低下を防ぐためには、交流人口の確保を図らなければならないというのは誰もの共通した認識です。年間延べ二千五百万人の観光客が一千億円の消費をするなかで、宿泊客の減少傾向に歯止めがかからないことを危惧しています。
グリーンツーリズム、ブルーツーリズム、産直、体験民宿、棚田のオーナー制など新しい要素の導入によって、従来の「見る観光」から「体験、逗留する観光」への様々な取り組みがされていますが、県外から来訪する観光客を受け入れる中心的な施設となるのは、温泉であり、ホテルや旅館、島根の新鮮・豊富な食材を提供する飲食店だと思います。
島根県では本年度、知事自らが先頭に立って、東京や大阪、名古屋などで観光業界との商談会やPRを積極的に開催されており、とりわけ、先の大阪での会合には、知事がすべてのテーブルを回ってトップセールスをされ、さらに商工労働部長は最後まで居残って、島根県の関係者に労いの言葉をかけられたと、参加した業界関係者は「観光振興に対する島根県の熱意を感じた」と感激気味に話しておりました。
ホテルや旅館、飲食店などは、施設の建設に大きなイニシャルコストが必要ですが、償却資産が大きいことから、損益さえ合えば、キャッシュフローが生み出せため、融資による大型の設備投資も可能にしてきました。
しかし、もはや「温泉」と言うだけでは集客できないばかりか、シングル客室や泊食分離などニーズの多様化、団体旅行から3,4人のグループ旅行へのシフト、旅行エージェントの主催・手配旅行の低価格化、インターネットへの対応など、常に先行投資を求められています。
平成十八年春にはJRのデスティネーションキャンペーンが予定されていますが、県内の関係者は従来型のPR活動に加えて、IT対応についての支援を求めています。航空機や宿泊の予約は旅行代理店からネット予約にシフトしており、今や、ヤフーなどインターネットの検索エンジンにどう乗せていくかが課題となりました。
本県観光に対するIT戦略の如何が今後の観光振興を左右すると考えておりますが、旅館やホテルなど厳しい経営環境にある業界の支援にはネット対策が不可欠と存じます。そこで、本県観光業界の現状と今後のIT対応についてお尋ねいたします。
島根県は「観光産業の振興は重点・目玉施策」としておりますが、県外からの企業誘致では、設備投資や雇用に対する助成をはじめ手厚い融資制度、不均一課税まで手厚い支援が講じられていますが、県内観光事業者の投資に対する支援はありません。固定資産税、不動産取得税などの軽減はなく、逆に、入湯税の徴収義務があります。僻むわけではありませんが、1年間の観光収益は約一千億円ですから、平成一八年度予算で見れば、観光客一人あたりの県費負担はわずか十五円五十銭であり、消費額が平均四千円とすれば、二五八倍の効果を上げているのです。
安土桃山時代を拓いた織田信長は「楽市楽座」によって、新興都市であった大津・長浜や岐阜の産業振興を図ったと言われますが、島根県が真に観光振興を図るのであれば、ホテルや旅館など観光事業者に対する税制面の支援を検討されるべきであり、鮮魚や精肉、青果などの生産市場の一般開放や観光地の川並や街並みの保存など「観光特区制度」の導入を図るなど、観光事業に対する民間投資の誘導策についてお尋ねいたします。
公共投資と民間投資の違いは時間です。民間投資は採算性・事業性の審査は厳しいものがありますが、資金の早期回収のため、事業効果の発現が求められますから、着手から完成までの期間は可能な限り圧縮されますが、地方の公共投資は、山陰道や中国横断道などの例をあげるまでもなく、気の遠くなるような時間が経過しても、一向に事業が完了する目処すら立ちません。腹立しいのは、日本橋を巡る首都高速道路の撤去・付け替えの議論で、景観を理由に僅か一㎞足らずの距離に、未だ着工の時期さえ決まっていない島根県内の山陰道の未整備区間の事業費の三倍に当たる六千億円をも要する事業が、検討の俎上に上った状況は、耳にしただけで血圧が上がります。
現在のように、毎年、国に予算計上してもらった事業費の範囲で整備をする事業手法では、いつまで経っても効果は上がらないのではないでしょうか。
昭和39年まで日本は収支均衡予算であり、赤字国債の発行はありませんでした。OECDへの加盟など先進国となったことを砌りに、昭和四〇年初めて二千億円の特例国債が発行されました。借り換え債の発行を含めた年間の国債の発行額は増加の一途で、昭和四十六年に一兆円を越え、昭和五十三年に一〇兆円を突破、昭和六十年に二一兆円、平成四年に三一兆円、平成十年に七六兆円、平成十三年が一三三兆円、そして平成十八年度は二〇〇兆円を突破することは確実な情勢です。
国債は、主として金融機関など機関投資家が引き受けていますが、山陰合同銀行で7千億円を超える国債を保有していることを考えれば、相応の資金が地場に回らず中央に流れており、言わば、お金の中央集権でありましょう。地方を含めた民間資金を国が吸い上げて、それを地方に再配分するというあり方は、地方の公共投資や社会資本整備のすべてに国が関与をするということであり、地方分権など名ばかりで中央のコントロールを強化しているだけのことであります。島根県には社会資本整備に必要な資金を調達するのに相応の資産や経済力は十分にあると思いますが、いかがでしょうか。
夢のような話ですが、私は、山陰道と中国横断道について従来の整備手法を転換し、国の事業認定を受けた上で、所要経費を県で調達し、島根県が四,五年で整備をして、所管会社に譲渡し、後年度に国の補助を受けて償還をすれば、事業効果をあげながら債務の償還をするという、極めて合理的なかたちになります。要は、六十年かけて造るか六十年かけて返すかということで、理論上、投入する事業費は同じです。
現在のように事業の着手、進捗、事業費の配分に至るまで国の関与次第という状況が続いたのでは、島根県の持続的、自立的な発展はなく、地方分権などは夢幻で、県の生殺与奪は国次第ということになりますが、社会資本の整備手法の現状と課題についてご見解をお尋ねいたします。
│掲載日:2007年04月14日│
国の予算措置に応じた社会資本整備の効果についてでありますが、議員ご指摘のように国の公共事業予算が抑制基調にある現状では、全体として事業の進捗に影響が出ております。
予算の執行については、予算単年度主義の原則があり、事業の連続性の確保という面での難点を補うため、国庫債務負担行為等の制度が用意されております。本県でも、トンネルや橋梁など単体で複数年にまたがる工事や用地買収などにおいて2年から4年の国庫債務負担行為を設定しながら効率的に事業執行を行い、早期の効果発現に務めております。
例えば、平田船川の整備では短期間に集中投資が可能な「床上浸水対策特別緊急事業」を活用し、早期に事業効果の発現を図ったように、今後も事業の優先度、緊急度を勘案しながら、事業の選択と集中を図った上で、コスト縮減の徹底と、1・5車線的整備などのローカルルールの採用により、事業効果が早期に発揮されるよう努めてまいります。
議員ご提案の整備手法につきましては、先程関係部長から答弁申し上げましたように、本県に新たな多額の借入に対する返済余力は現時点では残っていないことから、実現は難しいものと考えております。
社会資本整備に必要な資金調達について、資金の供給側となる県内の金融機関の資金動向は、公表されている、県内に本店を持つ21の金融機関では平成16年度末で、総預金約5兆2千億円に対し貸付が約3兆円であり、差し引きの約2兆2千億円が資金運用されております。このうち、地方債による運用が約2千3百億円、国債による運用が約8千億円となっており、運用額のかなりの部分が地方債以外に充てられており、この観点からは、本県が現在以上に県債を発行して必要な資金を調達しようとする場合、県内金融機関は資金を供給する余力はあるものと考えます。
しかしながら、道路、河川等の社会資本整備事業は、基本的に運用開始後の料金収入で投下資金が回収できないため、事業の減資となった借入金は税収入で返済するしかありません。平成15年度の県内の公共投資は総額で約3千2百億円ですが、県内で徴収された税は国、県、市町村の合計で約2千5百億円余で、国からの財政資金の補てんがなければ県内の社会資本整備を現在の水準で維持することも困難な状況です。
仮に、県が独自に県債を発行して、さらなる社会資本整備に充てようとしても、返済のための財源が確保される見通しがなければ、県内金融機関に県債の引き受けを要請することは不可能であると考えます。ご提案のように、返済時に返済額相当の国の補助金等の交付が約束されれば、返済財源確保の見通しは得られますが、現下の国の財政状況を考えれば、国庫債務負担行為の設定による国の後年度の財政負担を増大させる施策の実現は極めて困難だと考えます。
したがって、当面の県内資金需要に余裕があるとしても、これを財源にして県内の社会資本整備を加速させることは、現実的に極めて難しいと考えます。
観光振興を目的とした民間投資の誘導につきましては、来年度から、奈良県で税の軽減や財政支援などが実施されると聞いております。その内容は、修学旅行生の激減という実情を背景として、宿泊客数の増加をめざし、既存宿泊施設の個室化等のリニューアル促進を目的とした低利融資制度の創設などに加え、全国の都道府県では唯一、宿泊施設の新設、増設を目的とした不動産取得税、事業税の軽減措置といった企業誘致と同様な誘導策を実施されるとのことであります。
本県におきましても、観光振興は地域経済の活性化や雇用の拡大につながるものととして積極的に推進しておりますので、一定の要件のもとで、宿泊施設の新設等に対し、財政的な支援や規制緩和を行うことは一つの考え方ではあると思いますが、一方、既存の宿泊施設等との競合の問題など、解決すべき多くの課題があるものと認識しております。特に、不動産取得税や事業税と言った県税の減免につきましては、過疎法などで認められている特例を除き、企業誘致などでも実施しておりませんので、観光振興を目的として、「税の公平の原則」を崩してまでこれを実施するかは、慎重に判断されるべきものと考えております。
いずれにいたしましても、本県の実情に照らして、民間投資の有効な誘導策のあり方について、観光関連業界を含めた産業界や、市町村等、関係者のご意見を十分に伺いながら、今後、研究してまいりたいと考えています。
観光関連業界におかれましては、ここの施設の経営にあたり、経営者の創意工夫と経営努力によって、懸命の経営努力をされていることに敬意を表するものであります。近年の旅行形態は、従来型の名所旧跡を巡る団体旅行から、グルメ、温泉、体験などの目的を持ったグループでの旅行に変化しつつあり、このような旅行客の多様なニーズに応えて設備投資を行い、特色のある施設運営を継続していくことは、大変なご苦労が有ると思います。
また、一回の旅行における宿泊数の減少傾向や、旅行会社商品の低価格化、インターネット予約の維持経費など、収益の圧迫要因も増加していることから、健全経営を維持するにあたり非常に厳しい状況にあることは十分に認識しております。このような、観光関連業界を取りまく大きな環境変化の中でも、特に、議員ご指摘のとおり、インターネットの普及により、宿泊、運輸等の予約が大手予約サイトを通じて行われる割合が増えており、今後ともますます利用増加が予想されるところです。
これに対する対応の一つといたしまして、一月あたり数万件のアクセス数を持つ本県観光ホームページ「しまね観光ナビ」から、県内の観光施設が独自に開設しておられるホームページへの予約欄へ、よりスムーズに誘導できるよう、観光ナビの改良を考えております。なお、お話のありましたヤフーなど大手予約サイトへの対応につきましては、今後県としてどのような対応ができるのか研究してまいります。
議員が例示された高速道路の整備について申し上げますと、従来、高速自動車国道は財政投融資をはじめとした借入れにより建設費を調達し、通行料金でそれを返済するという方式で整備が進められました。
しかしながら、膨らむ債務の返済に対して増加する国債残高や国の財政状況と相俟って見直しが進められ、道路公団を引き継いだ新会社に対し、厳しい建設費圧縮と償還計画が課せられると共に、整備計画区間の内尾道松江線など採算性が厳しい路線に国により整備される新直轄方式が導入されたところです。
このような、高速道路を取りまく状況や国の財政状況、さらには本県の財政状況を鑑みた場合、多額の資金を調達し、将来に亘って債務を返済するという手法は取り得ないと言わざるをえません。
また、現在事業中の区間は高速自動車国道法にもとづく整備計画区間および国道9号バイパス事業で整備されているものであり、その新設等は国土交通大臣が行うこととされているところでもあります。高速道路は、持続的に発展できる快適で活力ある島根の国土づくりのため、早期の整備が必要であり、また、国土政策として国の責任で全線整備されるべきである、との考えから、従来より法定予定路線1万1千5百2十㎞の残る区間についてあらゆる整備手法を活用して早期の事業化を図るよう主張しているところです。
この度の道路特定財源の見直しについても、早期に高速国道全国ネットワークを完成させるため、具体的な整備スケジュールを明らかにした上で、必要な財源を確保するよう国に対して強く求めているところであります。