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9月議会の答弁で澄田知事は漢の高祖、劉邦の治世に言及され「吾れまさに関中に王たるべし。父老と約すらし、法三章のみ(私はすでに関中を制して、国王となろうとしています。ご先祖様に誓って約束いたしますが、法は三章だけにするようにいたします)」という法三章の故事を述べられました。これは、複雑苛法な秦の法制に対し、漢の法制は「人殺しは死刑。傷害、窃盗はそれぞれに裁く」というもので、規則や取り決めはなるべく簡単で一般の人にわかりやすいものでなければならないという意で用いられる例えであります。
近頃、友人から「俺たちが、何、悪いことをしただろうか」と言われました。新しい法律や規則が制定され、住民が萎縮・困惑し、処分されるような事象が起こっています。日本には長い伝統を社会通念として価値判断基準とする独特の精神文化がありましたが、価値判断の基準が倫理や社会モラルから法令へ急激に変化しつつあるのではないかと思います。古来から「国家がより堕落しているほど、法はより多い」と言われていますが、日本の現状はまさにその状況です。
いま、日本の法治国家の質が問われています。松下幸之助氏は松下政経塾の講義で「法治国家というのは非常に進んだ姿ではあるが、それは決して究極の姿ではない。むしろ、人間社会の進歩の過程における1つの姿であり、いわば中進国である」と説き、「『法三章』の故事のごとく国民の良識によって社会を律していく姿こそ理想である。」と語られています。日本が、自らの歴史を捨てて、徹底した法令による取り締まりと訴訟、裁判社会となり、やがてアメリカの51番目の州となる道を辿るのか、民族の歴史を冷静に振り返り、伝統文化や倫理教育の徹底により、徳政国家とも言われる真の先進国を目指すのかの分岐点だと思います。
理性によって自らを律することができれば、肥大化、複雑化する社会法制や行政機構を簡素化することも可能です。
宍道湖周辺から水揚げされたヤマトシジミから基準値を上回るチオベンカルブという除草剤の成分が検出されたとの報告を受けたときも、私は「ああ、やっぱり。」と感じたと言うのが率直な感想です。
残留農薬や食品添加物の規制の仕方は、原則自由で「残留してはならないもの」だけを示すネガティブリスト制度と、原則全てを禁止し、「残留を認めるもの」だけを示すポジティブリスト制度の2つがあります。
従来、日本の食品衛生法では、食品に残留する農薬について残留基準を設定し、それを超えた食品の流通を禁止するネガティブリスト制度をとってきましたが、残留基準が設定されていない農薬についてはいくら残留があっても規制できず、激増する輸入野菜等から極めて高濃度の残留農薬が検出されたことから、平成15年に法律改正が行われ、安全性が担保され、残留基準が設定されている農薬、すなわち「使用して良いもの」だけを一覧表にするポジティブリスト制度に一大転換されました。
ポジティブリスト制度の採用にあたっては、リストに載っていない農薬の食品への残留はもちろん、リストに載った農薬でも一定限度以上の残留が検出された食品については流通が禁止されることとなり、実際の農薬使用の現場では、防除対象の農作物に隣接する他の農産物にも農薬が飛散し、残留する可能性や、輸入農産物の増加のなか、国内外で残留基準が設定されていない農薬が検出される可能性もあり、残留基準が設定されていない農薬の残留については「人の健康を損なう可能性のない量(一律基準値)」が設定されました。しかし、性急な法律改正のため、実際に使用されている農薬の残留基準の設定にある程度時間を要することや農薬の登録と残留基準の同時設定等の問題から、3年後の18年5月29日から実施されることとなりました。 いま、顧みて、返す返すも残念なことは、ほとんどの人に農薬の使用・残留が「原則自由」から「原則禁止」に大きく転換されたと言うことがほとんど周知されていなかったことです。
今回、しじみの問題が発覚するまで、食品の残留農薬については、ポジティブリスト制度の導入という聞き慣れない言葉だけが先行し、未だに法令改正のねらいが生産者を含めて、関係者にほとんど理解されはいないのです。しかも、法令改正から施行まで3年もの期間があったにもかかわらず、県、市町村ともにモニタリングの仕組みや出荷前の検査態勢などは未整備で、対応が「後手を踏んで」しまったというよりもむしろ、「考えが及ばなかった」観は否めずません。これは現在の安全安心な食品の提供に対する県行政のレベルが如実に顕れていると思いますが、まず、関係部長の所感をお尋ねいたします。
シジミについては、改正食品衛生法に定めるポジティブリスト制での農薬の残留基準は農産物に対するものがほとんどで、魚介類の多くについては暫定基準となっているため、例えば今回検出されたとされるチオベンカルブは、体重50kgの1日の最大摂取許容量の180分の1でありながら、「流通できない」とされてしまいました。
今年は、隠岐の西郷湾で養殖された岩がキから大腸菌が検出されるなど、島根県産魚介類の「安全・安心」が必ずしも担保されていないような気がします。
島根県の農林水産業の現状はきわめて厳しいものがあります。しかし、すばらしい自然環境の中で生産される農林水産物が「汚染」されるわけは無いじゃありませんか。大きな汚染物質を排出する工場があるわけでなし、環境負荷をかける人間の数が少ない島根の土壌や水質に「問題あり」とすれば、それは住民の「無知」が為せる業だと言わざるを得ないのです。
つまり、現状は、法令改正に伴う様々な取り組みのすべての責任を自己完結能力のない個人事業主、とりわけ零細事業主体者である農業者や漁業者、つまり生産者が負わなければならないのであり、それを救済、補完する取り組み、仕組みがなければ、島根県の農山漁村は崩壊するしかありません。そうした意味では、「県は県民の生活を守るだけの力があるのか。本当にあてにしてよいのかどうか。」という島根県の行政の質が問われていると思いますが、今後、島根の生産者を守るためにどのようにお取り組みになりますでしょうか。
│掲載日:2007年04月23日│
BSEの発生や産地の偽装表示などを背景として、国民の食品に対する関心が高まる中で、平成十五年に食品衛生法が改正され、全ての食品関連事業者は自らが生産、加工、販売する食品の安全確保に関して、第一義的責任を有することが明記されました。また、食品中の残留農薬に関する消費者の不安の高まりなどから、残留を認める農薬等をリスト化し、全ての食品へ残留基準値を設定する新たな制度、いわゆる残留農薬等のポジティブリスト制度を、三年以内に導入することとされたところです。国においては、基準の策定に当たって厚生労働省薬事・食品衛生審議会を中心に審議され、平成十五年十月から平成十七年五月にかけ計三回の意見募集を行った後、平成十七年十一月二十九日に告示、六ヵ月の周知期間を経て、平成十八年五月二十九日に施行されました。この間、全国各地において制度説明会を計二十一回開催し、直接国民と意見交換がなされたところです。
県においても、平成十五年の食品衛生法の改正以降、各保健所が実施する衛生講習会において、食品等事業者の責務としての衛生管理記録の実施・保管、残留農薬に関する制度改正の動き等について、食品関係事業者等に対し説明してきたところで、農林水産部においても、農薬の使用履歴の記帳・保管について、農家に対して指導してきたところです。残留農薬等のポジティブリスト制度の全容が決定された平成十七年十一月二十九日以降につきましては、島根農政事務所及び農林水産部と連携し、生産者、食品関係事業者、消費者及び市町村担当者に対する講習会を十回、六百三十名に対して実施するとともに、保健所の実施する衛生講習会においても食品関係事業者及び消費者に対して、二十九回、八百六名に対し説明してきたところです。特に、農薬の飛散防止対策については、農林水産部においてパンフレット十万部を農家等へ配布するなど、啓発に努めたところです。
しかし、全ての食品に対し、約八百の農薬等について基準が設定されるなど、極めて複雑な制度となっているため、制度施行後においても、引き続き関係者への周知に努めています。また、健康福祉部が実施する検査は、市場からの不適正食品の排除を目的に実施するものですが、食品の残留農薬の検査については、毎年計画的に実施しており、平成十七年度は農産物五十五検体、牛乳十四検体を検査しています。今年度はシジミに残留する除草剤、コメ十五検体、牛乳十四検体について検査していますが、今後、新たに基準値が設定された食品についても必要に応じて検査を行うこととしております。
個別の出荷前検査については、生産者や団体において、取引の必要に応じて、主体的に行われるものですが、県といたしましては、シジミは本県の代表的な産物であり、早急に信頼を回復すべきであるとの認識のもと、モニタリング調査をすることとしております。なお、今回のシジミへの農薬の残留については、環境中に流出した農薬が蓄積したものであり、農薬の残留基準地設定時に想定されていなかったため、先般、速やかに健康影響評価に基づく基準設定がなされるよう、国へ要請したところです。
ポジティブリストの導入にあたっての周知については以上のとおりですが、特に農産物に対する飛散防止対策に力点を置いた制度周知に努めたため、結果として天然の水産資源への対応が遅くなった面があると思っており、今後も食品の安全確保に関して、制度の周知に努めるとともに、監視・検査等を継続してまいります。食品の安全安心に対する国民の関心が高まっている今日、食品の生産者自らが、その安全安心の確保に心がけることが重要であると考えております。
法令改正に伴う、責任や対応について、一般論として申し上げれば、法律は、当然のことながら、国会で制定された「国民みんなのルール」であります。従って、これも当然のことながら、法令の制定や改正について、守るべき責任を有しているのは、一義的には、当事者である国民、個人一人ひとりや事業者自身であると考えております。このことを基本的な前提とした上で、個々の主体だけで対応するのが困難な場合において、国民全体・県民全体・市町村民全体で、税金を使って個々の主体の責任や対応を、社会的に支える必要があるのかどうかは、ケース・バイ・ケースで検討しなければならない問題であり、一概に言うことはできないと考えております。
今回のシジミの件につきましては、生産者は、自らの問題として該当水域において、操業・出荷の自粛をしており、県といたしましても、本県の代表的な特産物であり、早急に信頼を回復すべきであるとの認識の下、モニタリング調査をすることとしております。