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出雲は日本の原風景が残っている稀有の地域だと言われ、出雲大社はその象徴とされております。しかし、出雲大社が鎮座する北山一帯の状況は容易ならざる事態となっております。
私は、この4年間、マツクイムシやシカの問題を取り上げるなかで、山林の荒廃を憂いてまいりました。平田の旅伏山から大社の弥山に至る地域の南側は山襞がほとんどなく、山裾までがまるで1枚の布きれをのばしたような地形です。数年前までは、松林が連なる、緑豊かな地域であり、出雲大社の周辺地域にふさわしい悠然たる風情がありました。
しかし、いま、この一帯のマツ枯れによる斜面崩落やシカによる剥皮被害木の放置などによる土砂流失は極めて深刻で、事態はもはや座視できないものであります。
北山のシカ被害は甚大です。7000㌶におよぶ弥山地域の山林の造林木ほとんどはシカによる剥皮被害を受けており、用材価値がほとんどありません。樹齢からすれば切り時であっても、ほとんど伐採されずに放置され、光合成を遮断しており、森林環境は悪化の一途です。県は毎年、関係住民と一緒に、区画法による生息調査を実施し、推定生息頭数を算出し、一定以上増加しないように頭数管理を徹底するとしてきましたが、毎年300-400頭の駆除を実施しても、シカの生息頭数は減少しないばかりか、逆に増加し、半島東部の湖北山地に生息域が拡大してしまいました。
県は特定鳥獣保護管理計画で弥山のシカの生息数を180頭とし、平成18年度末までに達成するとしていましたが、平成18年度調査の結果、現状の推定生息頭数は682頭とされ、大幅増加となりました。
疑問に思うことは、「平成17年の生息数は450頭と推計し、350頭の捕獲をしたが、平成18年の調査で680頭であったので、平成17年の推定数を725頭と補正する」と訂正しないまま、次の年度の駆除、捕獲頭数を決定されることであります。昨年の生息数から200頭以上の増加となる発表となっても「今年の調査結果での増加は、昨年から調査区域の一部見直しをした結果で、シカの生息数は減少傾向にあると考えている」という摩訶不思議なコメントが出され、生息頭数管理を形骸化させ、無責任極まりない状況です。シカの頭数管理ソフトである「シムバンビ」によって一連の発表値を補正するとどうなるでしょうか、お示し願います。
また、2月8日の関係者の会合では湖北地域の野生鳥獣の被害状況が報告され、かなりの被害実態が明らかになりました。「もともと湖北地域でのシカの生息は報告されておらず、弥山地域での県の保護政策の結果、生息域が拡大したと考えられる」との出雲市の見解が示されましたが、これに対する県の見解を求めるとともに、湖北地域のシカは徹底駆除すべきであると思いますがご見解を伺います。
また、おびただしいシカの被害木の除去についてお尋ねいたします。いま、弥山や旅伏山周辺では、至るところで造林木が根返りしており、早急に間伐、受光伐を実施しなければなりませんが、その必要性について認識をお尋ねいたします。同時に、マツクイムシ被害木の除去についてもお尋ねいたします。
仄聞するところでは、マツクイムシに対する耐性苗が開発され、植栽可能な状況とのことでありますが、現状での生産状況と植栽可能面積についてお尋ねします。とりわけ、弥山、旅伏山地域については、マツクイムシ被害が顕著であり、出雲大社をかかえる森林景観保全の必要もあり、最優先での取り組みを求めるところであります。
また、神戸川の最下流である稲佐の浜、とりわけ港原地区周辺は、近年、特に流砂の堆積が顕著で、住家や幹線道路への砂塵被害が増加しているとのことであり、この流域からの土砂流入も大きくなっていることが推定できます。
私は頻発している地滑り、斜面災害の状況について憂慮しており、災害対策として施工される法枠の面積が拡大するたびに、このままでは、北山の斜面全てが法枠で固定されるのではないかと胸が痛みます。現在の法枠の施工状況についてお尋ねするとともに、景観を重視した災害防止方策については、「木を切ること」つまり、森林の適切な管理をする以外に方途はないと認識していますが、渓流沿いの山林整備についてのご見解お尋ねいたします。
│掲載日:2007年05月07日│
シカ対策について
「昨年の生息頭数を450頭として、今年度349頭捕獲すれば」ということで、弥山山地のシカについて、頭数管理ソフトである『シムバンビ』で試算すれば今年度の生息数は152頭となり、今年度の推計値である682頭から毎年の捕獲実績を使って逆算すると、平成17年度は860頭、平成16年度は1,043頭となります。
区画法調査は他の手法に比べ相対的に精度が高く、全国的にも評価され、採用されていますが、抽出調査のため区画の設定条件によって推計値が変動することから、今後さらに蓄積されたデータの分析を行いながら、生息調査の精度を高めたいと思います。
湖北地域に生息するシカについては、有害鳥獣捕獲のほか狩猟など捕獲圧を強める地域と位置づけており、出雲市の取り組みを後押しする考えです。
シカの被害木除去と間伐、受光伐については、森林の多面的機能を高度に発揮させるために必要な施業であり、荒廃森林での不要木の伐採、下層植生の回復、餌となる広葉樹の植栽および鳥獣被害防止施設の設置など、平成19年度から「森林環境整備事業」を実施して森林の機能回復とともに鳥獣の生息環境を整備することとしています。
マツクイムシ対策について
北山地域の松林についてはマツクイムシ防除対策を実施していますが、依然として被害が発生しており、立ち枯れ木が目立つようになっております。平成14年度から枯損木については「みとせりの森緊急整備事業」により除去対策を実施してきており、平成19年度からは「森林・林業頑張る市町村応援交付金事業」により、枯損木除去対策等の市町村の取り組みを支援します。
マツクイムシ抵抗性マツについては平成7年に抵抗性の強いアカマツ25個体、クロマツ9個体を選抜し、近年、種苗園からまとまった量の種子が採取可能となったことから、本年3月から林業種苗生産者に種子供給を開始し、育成後、平成20年秋から苗木の供給を開始することとしています。今のところ、平成20年秋の供給可能量はアカマツ11万本(37ha)、クロマツ3万本(10ha)と見込んでいます。
山林整備について
弥山から旅伏山にかけては急峻な地形が続いており、治山事業など、この10年間で108カ所の対策工事を実施しており、うち24カ所のべ22,000平米で法枠を採用していますが、やはり、基本となるのは土石流対策としてのダムや流路工などハード整備とともに、森林整備が可能な地域において植栽や間伐などをきちんと実施していくことが必要不可欠であると考えております。
森林整備は、森林がもつ大きな公益性から、近視眼的な採算性でその是非を云々するべきではありません。むしろ、森林をかけがえのない地域資源として、住む人すべてで守り、次代に受け継ぐべきという観点がもっと強調されるべきであり、地球温暖化対策やバイオマスといった取り組みはその象徴であると考えます。島根県の財政は極めて厳しい状況にありますが、可能な限り森林整備に必要な予算を確保したいと思います。