Reports
日本の田舎社会はずいぶん長い間、農林水産業とサラリーマンを兼業することでそれなりに豊かに生活してきました。農山漁村が必ずしも共同生産社会でなくなり、直接、生産活動に参加しない世帯が居住する、いわゆる混住化が始まっても、河川や道路などの管理・清掃などに参画することでコミュニティが保たれてきたのです。
しかし、いま、ピンチです。農山漁村は生産・販売を支えてきた共同組織の農協・漁協・森林組合などの協同組織が力を失い、生産品の価格決定権は市場から大手スーパーやハウスメーカーに移行しました。国内産品は否応なく海外からの製品、産品との価格競争にさらされ、収益性は悪化するばかりであります。
今年の米価はきわめて深刻な状況にあります。過剰在庫や品質低下も一因ではありましょうが、コメ販売の過半数が量販、スーパーに移行したときからこうした状況は予測されていたのです。
このことは、漁業に明らかで、漁獲は減っているのに、国内産の魚価が低迷、就業者は減少、漁村の荒廃は顕著となりつつあります。
私は、戸別所得補償に象徴される網羅的なばらまき、直接給付では農林水産業の窮状を再生に向かわせることなど絵空事だと思っています。とても、効果が上がるとは思えません。
政府・民主党は「地域主権」を掲げ、補助金を撤廃して一括交付金化するとしています。
私は、国が、農林水産業の再生に資するために思い切った財源措置を講ずる根拠として、全国一律の戸別補償を準拠し、都道府県ごとに給付し、都道府県知事が地域の特性、事情に合わせたょと久補償制度を展開すれば、日本の農林漁業は大きく変わると思います。
現段階では、そうなる可能性はきわめて少ないでしょうが、戸別補償が本格実施され、水田農業2万㌶に30億円、水田利用の転換畑作農業1万㌶で30億円、畑作農業5千㌶で10億円、中山間直接支払いその他で20億円など農業で90億円、資源管理や漁場利用で水産で10億円、間伐や路網整備で林業で20億円が現状で漏れ聞こえる政府・民主党の配分額水準です。
この農業90億円、水産業10億円、林業20億円を国から毎年、島根県に交付される財源として、島根県知事の裁量で制度創設し、実質的な所得補償政策として実施するとすれば、どのような施策を立案しますか。そして、その対策の展開によって、どのような効果を期待し、島根県の農林水産業および農山漁村をどう造り替え、再生させることができるか所見をお伺いします。
│掲載日:2010年09月29日│
仮に戸別所得補償の交付金相当分を県が独自の政策に使えるとした場合、どのような政策を考えるかについてであります。
まず、農業分野におきまして一定の財源をもとに制度を創設することにつき、県内の農業者や関係団体等々の合意が得られると仮定いたしました場合、適地適作を基本に作物生産、産地づくりを推進する全県規模での共補償制度の創設、あるいは地域の特色や資源を生かして地域の生産者が取り組む地域振興作物に対する柔軟な助成制度の創設が考えられるところであります。
まず、全県共補償制度につきましては、依然、過剰基調が続く米につきまして、生産調整が維持されることを前提とした場合、県全体をこの共補償の対象といたしまして、中山間地域のような良質米地帯において米づくりのウエートを高め、また土地条件に恵まれ、大規模農業がより展開しやすい平野部においては、米以外の作物の団地形成などを進めると、こういったいわゆる適地適作を進めていくことが可能と考えられるところでございます。
また、地域振興作物に対する柔軟な助成制度についてでありますが、これまでも産地づくりを進めてきた、例えば大豆などの既存の作物や今後新たに産地づくりを進めようとする園芸作物などの生産に対しまして、その安定生産が可能になるまでの初期のリスクの軽減のための支援措置を講じることによって、新たに栽培に取り組む生産者を確保したり、面積の拡大が図られ、地域としての産地確立が可能になるものと考えられるところでございます。
こうした政策の一方で、島根県の農林水産物は全般的に生産ロットは小さいが、品質の高さや丁寧な物づくりの面で評価を得ているところであります。この特徴を生かしまして、さらには環境保全や安全・安心などといった多様化する消費者ニーズにも対応した売れる物づくりを一層進める。また、相対取引の増加などによって生産者側が価格交渉力を強化させていくと、こういった取り組みを促すということによりまして、我が県の大宗を占める中山間地域等の条件不利地域でも再生産が可能となる農業取得の確保を目指すことができるものと考えられるところであります。
次に、林業につきましては、植えて切って使う、いわゆる循環型林業実現のための基盤をつくることが必要であると考えております。しかし、自分が所有をしているといった、そういう意識すら持っていないような市民所有者や不在村地主によって放置された森林が増加することが懸念されているというのが現状であります。このような中で、直ちに制度創設ということは困難であるとは思われるところではありますが、例えば森林の経営と管理を一括して超長期にわたる契約を結ぶことなどによって、森林所有者にかわって森林組合などのプロの森林管理保全の組織が、森林の永続的な経営管理を行うための新たな仕組みを構築するということが考えられます。また、行政としては、森林所有者と管理経営を引き受けたプロの森林組合等の組織による適切な経営管理が行われるよう、積極的に支援をしていくと、こういうことも考えられます。
具体的な例を挙げますと、森林の現況調査でありますとか、所有者の洗い出し、契約締結などへの支援を行う。さらには、荒廃林の再生や一たん切られた森林の再造林への支援といったものが挙げられるところでございます。これらの仕組みは、林業の生産性向上はもちろんでありますけれども、山村の活性化や健全な森林の保全を促していくものと考えられます。こういった川上側の取り組みとともに、県産木材の加工流通の効率化や住宅建設や公共建築物、建設材等の需要拡大など、川下側の取り組みを促すこともできれば、さらに相乗効果を高めることが期待されるところでございます。
なお、森林の多面的機能は、国民がひとしく享受していることにかんがみますと、このお尋ねの直接支払制度に係るような議論とは別の視点になるわけでございますけれども、森林管理保全に係るコストを国民全体で負担するために知事が提案しております森林環境税の創設についても、国に働きかけていかなければならないと考えていることを申し添えさせていただきます。
次に、水産業につきましては、漁業資源の悪化、高齢化等による担い手の減少、低迷する漁家等厳しい状況の中でも、とりわけ漁業生産の基盤であります資源の回復が緊急の課題と考えられるところでございます。しかしながら、現実に漁業経営が苦しい中にあって、実質的には漁獲減となるような資源管理を効果的には行えないというような状況にあるわけであります。そこで、仮に財源が確保されまして、地元漁業者や隣り合う県なども含めました関係者の合意が得られるのであれば、長期にわたる休漁や小型サイズの魚の禁漁といった、いわば思い切った資源管理措置に伴って、避けられない漁業者の収入減を100%補てんする仕組みを構築することが考えられるところであります。また、これによって回復した資源について市場価値が高いと考えられる魚種や、あるいは魚のサイズに絞って効率的な漁獲を行い、さらに付加価値を高めるような取り組みを支援していくことが考えられるところでございます。さらに、省力化等コスト削減に向けた新たな投資を支援していくことも考えられます。これらを行うことによって、漁業の経営基盤の安定を図り、新たな人材の確保も可能となっていくものと考えられるところでございます。
これらのように、農林水のそれぞれにつきまして、仮定ではありますが、考えられる施策を挙げてまいったところでございます。これらのほかにも、担い手の確保など行うべきことはあるわけでございますけれども、こういったものに加えまして、農林水産業、農山漁村が果たしている多面的な役割、さまざまな役割につきましての県民、国民の理解を深める取り組みを進めることが、農林水産業の価値のきちっとした評価の上に立って、適正な価格でその農林水産物が買われ、その結果として、生産者の再生産を支えていくと、こういったことのためにも今後はより一層重要になると考えておるところでございます。こうしたことによって、産業として経済的に自立をし、地域として元気に快適に暮らせるような農林水産業、農山漁村を実現し、次世代へ引き継いでいくことを目指すべきものと考えておるところでございます。