県議会だより

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平成22年11月定例議会一般質問(2)

農業の振興について

さて、唐突な菅首相のTPPをめぐる発言には農林水産業関係者の反発は大きい。
昭和59年にはコメの生産価格は60㌔あたり24000円で、10aあたりでは約20万円だが、平成になって15万円、現在では10万円程度まで下落した。コメ農家の収益性は著しく低下しており、TPPなどによってさらに価格下落が顕著となれば水田営農を主とする国内農業が崩壊するとする論は説得力がある。
しかし、TPPを阻止したところで、EPA,FTA,WTOなど様々な貿易交渉で自由化は抗えない事実である。
では、どうするのか。

農業を例にとって考えてみると、島根が向かうべき道のりは、現在の国の農業政策を下敷きにした水田農業では限界があるのではないかと思うのである。従来、政府方針の大型化に倣い、島根県も土地改良を含め、大型化、大規模化を推進してきたが、水田農業から多面的な農業が実践できるように、潅水施設や暗渠排水施設などの設置を進める農地の高度化を図る高品質、安全、高付加価値などに転換すべきではないか。また、従来からの一律支援は「捨てつくり」の奨励で「良いものをつくる」という意識を低下させている。外国産の安い、大量の農産品対抗するためのツールは、「品質」「安全」「鮮度」であり、徹底してそれを追求すべきである。そのためには、望ましい制度の創設について「国から示される」のではなく「国に示す」必要がある。

島根県内では、農業就業者の減少、高齢化に対する対策として集落営農を推進してきた。当初は、機械の共同利用による各戸、各圃場別の営農形態が多かったが、営農組合員中の認定農業者が施業を担う形態に移行し、現在は、農地の利用権設定による大規模、集約化と営農組合の法人化による農業のプロ化に向かいつつある。中山間地直接支払制度や農地水環境保全向上対策、戸別所得補償などで支払われる支援金は10aあたり水田で46400円にも上るが、必ずしも農家所得の向上や耕作放棄地の解消に特筆すべき効果が上がっているとは言い切れない。

一律補償から品位補償に変更すべきである。「良いものをつくる」ということにインセンティブを与えるという政策に特化してはどうか。
島根県の農地は約4万㌶、売り上げは640億円余だが、国は467万㌶(遊休農地39万㌶)生産額は8兆5千億円余で、その平均反収は概ね18万円前後である。その80%程度、つまり10aあたり15万円を基準単価にして、農業法人または営農集団は、耕作すべき地域範囲と作物、予定収穫量(3年間の平均値)を予め当該自治体と契約し、作付けするのである。
収穫し、販売した後に、一定水準以上の品質の生産品の市場価格と10aあたり15万円の差額を所得補償金として支払う。例えば、コメの収量契約を10aあたり500㌔と設定した場合、1等米の市場価格が1㌔あたり150円であれば、1等米の品位補償を1㌔グラムあたり150円(3/3)、2等を100円(2/3)、3等を50円(1/3)としておけば、1等米の生産で75000円が所得補償金として支払われるのである。天候による収量の減少には共済で補填すれば良いし、コメ以外の作物、例えば小麦の生産を奨励しようとすれば、10aあたりの基準価格を15万円よりも高く設定し、例えば、収量契約を10aあたり200㌔と設定した場合、1等の市場価格が1㌔あたり70円とした場合の1等の品位補償を1㌔グラムあたり750円、2等500円、3等250円とすれば、1等小麦の生産で150000円が所得補償として支払われるのである。

そうすれば、適地作付けが推進されるばかりでなく、農家に「良いモノをつくる」「良いモノをつくらなければ売れない」という意識が徹底醸成されるのであり、また、自由化によって価格が下落した場合は、品位補償単価を引き上げして対応すれば農家の所得は確実に確保され、また、契約作付けの段階で予定数量や品位補償単価を平場、緩傾斜地、急傾斜地で一定の調整値を設定することで地域的なハンデが解決できるのである。また、中山間地や平丹地ごとに別々の支援制度が創設されている農業政策が一元化できるという効果があり、従来の中山間地直接支払制度や農地水環境保全向上対策、戸別所得補償を廃止して、品位補償に一元化することによって一定財源の捻出も容易になると考えられる。
現在、農業委員会の役割が農地転用の審査機関のようになっているが、農業委員会を品位所得補償の推進・審査機関とすれば、地域に密着した展開が可能となると思うのである。「捨てつくり」を排除しなければ、輸入農産物との価格競争に敗北することは自明で、国内農産物の海外輸出など絵空事になってしまうことを危惧する。

そこで知事に尋ねるが、
自由化の拡大に対応した農業支援についてどのような視点が必要なのか所感を求める。(知事)

望ましい所得補償制度のありかたについて述べよ。(農林水産部長)

島根県の企業支援の特徴は、手厚い制度金融である。しかし、借り入れは返済が必要で、せっかくのキャッシュフローが再生産投資に向かず、過去の設備投資の償却に宛てられてしまう。
初期投資を株式や出資で比較的容易に調達できる都市部の企業と島根県内の事業所の決定的な差であり、製造業のみならず、農業や漁業にも同じ傾向が見られる。
高い生産技術や一定レベルの収益性があっても、初期投資がかさむ事業の資金確保がネックとなって事業を断念または県外資本に場を提供する例は枚挙にいとまがない。
島根県内には6兆円を超える金融資産がありながら、そのほとんどが銀行預金などであり、県民が受け取っている果実は驚くほど少ない。
島根県では、「投資」という観点があまりに少ないように思えるが、平成17年4月27日の国会で「有限責任事業組合契約に関する法律案(以下LLP法)」が可決・成立し、平成17年8月1日に施行された。待望であった有限責任事業組合が導入され、ベンチャーと大企業の連携、中小企業同士の連携、産学連携、街づくりや農業など様々な場面で日本版LLC・LLPの活用が期待されるが、最近、石見地域で、この活用例があると聞く。

そこで尋ねるが、こうした、新しい投資手法について
事例について紹介されるとともに期待を述べよ。(農林水産部長、商工労働部長)

溝口善兵衛知事答弁

農業の支援について

貿易自由化が拡大をすると、農業をどうするかという問題が出てくる。農業の支援についてどのような視点が必要なのか所感を問うという質問であります。
現在、問題になっていますTPPに加盟をするというようなことになり、仮にです。それから、あらゆる物品に対して関税が撤廃をされるということになれば、日本の農業は壊滅的な影響を受けるだろうということでございますから、そんなことはあってはならないわけであります。しかし、一般論として言いますと、世界的なグローバリゼーションの進行に伴って、各地でこうした貿易の自由化の動きは、TPPに限らず、今後とも進む可能性があるわけでございますから、そういう事態を念頭に置いて、日本の農業をどうするかということを国は真剣に考えていかなければならないわけであります。
そうした際にどういうふうな対応をするかということでありますと、議員が御指摘のように、輸入産品に打ち勝つ農産物を日本でつくるほかないわけであります。輸入産品の特徴は、やはり安くて大量の農産物が生産をされるということでございますが、米に見られますように、同じ米といってもいろんな種類があるわけでありまして、日本の消費者の多くの方が好む米と、あるいは洋食に合うような米とは、物が同じ米といっても違うようなもんでありますし、非常にわかりやすく言うとそういう違いがあるわけでありますから、日本の消費者が好むような、高く評価するような農産物をやはり日本でつくり、それを一つの大きな武器として輸入品に対抗していくと。もちろん、そういう保護をする政策ももちろんあわせて行う必要がきっと残るでしょうけども、基本はそういうことではないかと思います。
そういう意味では、議員が御指摘になったように、品質、そして食の安全、それから鮮度といったようなものが、この農産物の高い評価につながるわけでありまして、そうしたよいものをつくるような努力をする。農業全体として。それをやはり国が支援をする。県も支援をする。そして、農業者の方々も、そういうおいしいものづくりにいろんな努力をする。そういう総合的な対応が必要だろうというふうに思っております。
そういう意味では、この島根県におきましても、美味しまね認証制度を導入する、これは園山議員が、この認証制度のようなものを導入すべきだというようなこともあって実現に至ったものでありますけれども、あるいはエコロジー農産物推奨制度など、安全・安心で高品質な農産物づくりに取り組んできておるわけであります。今さらに取り組もうとしておりますのは、有機農業をさらに拡大をするということでございますし、それから地球の温暖化等の影響もあり、平地での米につきましても、きぬむすめといった新しい品種を生産をするとか、いろんな努力がなされておるわけでありまして、基本的に日本の消費者が喜ぶようなものをつくる。
そしてまた、日本の消費者が喜ぶようなものというのは、大体どこに出しても非常に品質が高くて喜ばれるわけであります。アジアの国々、農業国がありますけれども、これから高い成長が続くと、やはり富裕層というような人が出てくるわけでありまして、そういう人たちは、やはり日本の消費者と同じようなおいしいものを求めるわけでありまして、市場は海外にも開けるわけであります。かつて、ウラジオストクに行ったときに、同じトマトでも、中国産のものと、中国産のものもウラジオストクに入ってましたけども、日本のものでは値段が10倍も違うというようなことを聞いたことがあります。つまり、食の安全ということからいえば、日本のものは定評があるわけでありまして、そうすると、ある程度所得が上がると細かい値段の差というよりも品質のほうに大きなウエートが移ってくるわけでありまして、そういう農業を日本も追求するようにする必要があろうと思います。
あわせて、そういう特色のある農産物、あるいはいい農産物が安くてできるためには、そうした農地の条件整備が必要であるわけでありまして、かんがいの施設でありますとか、暗渠排水、農地の高度化に視点を置いた整備も進めていく必要があるのではないかというふうに思っておるところでございます。
いずれにしましても、地域の実態に応じまして、新しい取り組みができるように、県としてもいろんな支援に工夫をしていかなければならないというふうに考えているところであります。

石垣英司農林水産部長答弁

望ましい所得補償制度のあり方などについて

望ましい所得補償制度のあり方についてお答えいたします。
本年度実施されている米戸別補償モデル事業につきましては、標準的な価格とコストの差額相当分として、全国一律の面積単価で補てんされるものであります。また、水田利活用自給力向上事業についても、麦、大豆などの作付面積に対しまして、基本的には全国一律水準の交付金が交付されるものであります。このように、全国一律面積単価といった形でありまして、収量や品質の向上や適地適作へのインセンティブが働きづらいなどの課題が挙げられます。このため、来年度からの本格実施に向けましては、米の戸別所得補償交付金につきましては、中山間地域等の担い手育成に資する加算措置を、また地域の特色を生かした農産物の振興等を支援する産地資金につきましては、地域の実情を踏まえた自由度の高い制度となるように、国に対して提案しているところであります。
今後、国際化の進展によって、国内農業を取り巻く情勢は一層厳しくなることが予想されるところでありますが、中山間地域が県土の大宗を占め、全国の農業算出額の1%に満たない島根農業が持続的に発展するための戦略といたしましては、量より質にこだわったより品質の高い売れる農産物づくりへの誘導が重要であると考えられます。このような戦略という目で見ると、所得補償制度は農家経営の安定等を図るために必要な岩盤対策としての機能を有するものではありますが、その一方で、例えば議員は品位に応じた補償といったことを提案しておられるところでありますが、品質向上を促したり、地域の特色を生かした農産物生産や適地適作を誘導するような機能を持つことが望ましいのではないかと考えられます。県といたしましては、国際的な貿易ルールを勘案しながらも、御提案いただいた内容も踏まえ、品質向上等につながるような有効な提案ができるように、研究、検討してまいる必要があると考えております。
次に、LLPの石見地域での活用事例などについてお答えいたします。
最近設立された石見地域でのLLPの事例といたしましては、浜田市の有限責任事業組合グリーンフロンティア浜田があります。この組合は、野菜農家、果樹農家及び有機野菜栽培を行う有限会社の3社によりまして、平成21年11月に設立されております。浜田地域では、以前から、行政やJAなどによりまして、地域農産物等の新たな流通販売の仕組みづくりについての検討が行われる中で、加工や流通など他業種の出資により、販売、地産地消、食育活動等に取り組むLLPが研究されてきておりました。このような中で、規模拡大を検討しておられた、先ほど申しました3社の間での意向が一致を見、経営形態が異なる3社がそれぞれの特徴を維持しながら、組織化が可能で、スピード感のある事業展開も可能なLLPが選択されたものと聞いておるところであります。この組合では、浜田市の新開団地に昨年度、野菜や果樹のためのパイプハウス、また集出荷施設を国庫補助事業で整備をし、営農が開始されたところであります。
LLPには、有限責任構成員課税の適用、損益や権限の分配が自由という3つの特徴がありまして、意思決定も迅速に行えるとされております。このことから、このグリーンフロンティア浜田には、関係者から農業生産はもとより、研究開発、流通販売、地産地消等への活動の広がりが期待されているところであります。なお、県西部には、このほかにLLPといたしましては、木質バイオマス利用の推進に取り組む益田市の西日本木材エネルギー有限責任事業組合、LLC合同会社では、津和野町に地元の蔵元と冬虫夏草のバイオ会社で設立をされたリキュールの製造及び販売を行う合同会社金彩津和野などがあるところでございます。

小林淳一商工労働部長答弁

LLC、LLPの活用への期待、可能性について

LLC、LLPの活用への期待、可能性についてお答えします。
LLCやLLPは、法人格の有無やパススルー課税の有無といった税制上の違いはあるものの、いずれも設立のしやすさや構成員全員が有限責任であること、さらには迅速な意思決定ができることなどのさまざまなメリットがあります。県内でも、そのメリットを生かしまして、研究者と大手企業が連携した県の行います新産業創出プロジェクト関連事業ですとか、中小企業が連携した地域振興事業などLLCやLLPを活用した事例がございます。
県西部ということですと、ちなみに江津市の道路建設事業者の方7社がLLPを組織されまして、市内の公共施設集積地内にバス停とか商業施設を一体とした施設を整備また運用を行うといったような例もございます。
このように、産業振興や地域振興など幅広い分野で活用ができる組織形態の一つであると期待しているところでございます。
こうしたことから、県といたしましては、創業や新技術また新分野への取り組みを支援する中で、LLCやLLPの積極的な活用を推進していきたいと考えます。また、議員御指摘のとおり、投資という手法は県内企業の新たなチャレンジ等を促進するための有効な手段であると認識しております。そうした中で、LLCやLLP自体が投資の主体となり得ることから、現在、県として進めております投資ファンドのあり方検討の中で、その可能性について研究していきたいと考えております。

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