県議会だより

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平成24年6月定例会一般質問(1)

農山漁村の振興について

島根県の人口減少、とりわけ農山漁村の疲弊、衰弱は著しいスピードで進行しています。それは、行政が予測しているよりもはるかに厳しい状況のように思います。
かつての農山漁村には、一次産業をベースにした就労の場があり、規模は小さいながらも経済や人の循環があり、それが地域の活力を生み、コミュニティを形成していました。
しかし、情報、通信、交通などの、高速化・高度化は、人々の移動距離や通商の範囲を飛躍的に拡大させ、結果、域内での限定的な経済循環の中で生きてきた人たちは押しつぶされ、消失してしまったのです。
時代や社会に即応した投資によってネットワークを拡大させた者が辛うじて生き残っているものの、規制緩和による自由競争の拡大によって、外資を含めた大手資本が地方に進出、展開しており、きびしい生存競争にさらされているのが現状です。
農山漁村と言えば、従来、農家、林家、漁家をイメージし、ほとんどの人が農林水産業にかかわりを持つ地域と考えますが、現実はそうではありません。農山漁村は既に非農林漁家に占拠された「混住化社会」であり、農村では1970年に農家と非農家の比率が逆転し、いま農村住民のほとんどが非農家となっています。
農村活性化の名のもとに農地の宅地転用が活発化し、道路整備が繰り返され、地方では車社会を推進させました。都市近郊の農村は「郊外」という都市に準じた成長可能地域であり、「郊外化」を模索し得ない地域は成長を現出できない地域となり、人口減少と高齢化による「過疎」に悩まされ、さらに遠隔地となる山村や漁村の疲弊・衰退は顕著となりました。
わが国の近代化は都市化・工業化によって実践されましたが、農林水産業はその裏表の関係として否定され、生き残るために「郊外化」を受け入れるか、都市への転出を選択せざるを得なかったわけです。
しかし、少子化が進み、親の資産を継承する子弟が多くなれば、都市の宅地需要は停滞し、都市の外延的拡大も、都市への人口の吸収も必要なります。都市が近郊を必要としなければ、従来の農山漁村の活性化方策が通用しなくなる、そんな時代がもうすぐそこに来ています。
「過疎化」と「郊外化」とは農山漁村の有り様、特に人口動態としては対極的な動きでありながら、農林水産業からの距離感の増大、つまり農林水産業離れという点では共通した方向性を持っています。都市に従属した農村では、都市型農業や脱農業化など不動産所得を前提とした農業活性化政策で経済的には大きく成長しても、住民のサラリーマン化・混住化が進展し、都市から大きく離れた山間地や漁村では離村によりムラの担い手を失ってしまいました。
島根県の農山漁村が自らのアイデンティティを確立し、再び活性化するためには、都市に従属する社会構造の転換が必要です。つまり、従来、地域の中で小なりとは言え、生産・流通・消費という循環が実践され、地域がある面、都市から自立あるいは自己完結してきたことを取り戻すための政策が求められると思います。
農山漁村の活性化には定住するために不可欠な収入を得る方便が必要であり、それが農林水産業とのかかわりの中で実践されなければなりません。農林水産業と加工や流通など商工業、交流ビジネスなど観光業とのコラボレーションとなる6次化も1つの方策ではありますが、地域に住んでいる人たちが一体となって形づくるコミュニティの強化が、まず必要だと考えます。
「島根には強固な地域のコミュニティが残っている」と言われますが、地域のコミュニティを形成している主体のほとんどは高齢者であり、若者のほとんどが、市街地の事業所に勤務し、自宅には「寝に帰る」生活となっているのであり、農山漁村の生産年齢人口世代のコミュニティが存置、確立されているのか否かは疑問です。夥しい未婚者数を見ると結婚対策についても「徹底的に出合いの場を提供する」という面が必要です。
島根では大都市部に比較して資本を調達する術が限定的であり、設備投資のほとんどが金融機関からの借り入れという実態は、キャッシュフローが再生産投資に向かいにくいというコスト競争の限界から、適切な行政支援なしには競争を勝ち抜くことが難しいという現実もあります。
島根県民が有する金融資産は6兆円を超えていると言われていますが、資産から生ずる付加価値が多ければその利息で食べていけますが、超低金利時代にあって、その額は微々たるものであり、足し前にならないのです。
経済の指標でGDP(Gross Domestic Product)国内総生産やGNP(Gross National Product)国民総生産が使われますが、GDI(Gross National Income)国民総所得で比較すると、島根のように、生産活動よりも資産の蓄積や運用益(多くは預金金利)で所得を付加させてきた地域では、超低金利時代の純所得が伸び悩んでいることがわかります。
まず、県がこの島根で、とりわけ農山漁村で暮らす人々にどのような定住・所得対策を講じ、農山漁村と密接不可分な農林水産業に対してどのような視点で対策を講ずるつもりですか。(知事)
少子化を食い止めるためには、どうしても喫緊の結婚対策が必要ですが、どのようにして取り組むのですか。(知事)
不在地主の増加や耕作放棄地、放置山林、従来、住民が受け持ってきた公共施設(道路、河川)などの管理が過疎、高齢化によってできなくなり、荒廃が増幅している地域に対する施策ついてどう考えていますか。(知事)
また、過疎化、高齢化の進行は独居者の防犯、健康管理など安全・安心対策の必要性を増加させますが、県内で最先進地となっている奥出雲町の事例のようにITの積極的な活用によってある面克服できる部分があります。過疎地域の携帯不感地域解消やIT化の進捗状況はどうなっていますか。(知事)
コミュニティの維持のためには地域の輪のなかに高齢者のみならず全年齢層の参画が必要です。せっかく古事記編纂1300年とする「ディスカバー島根県」とする取り組みによって「ふるさとの良さや価値を知る」またとない機会が用意されていますが、2033年の風土記編纂1300年までをかけて、もっと息の長い県民運動を展開してはどうでしょうか。(知事)

溝口善兵衛知事答弁

少子高齢化の進む農山漁村の疲弊について

議員から島根の少子高齢化、とりわけ農山漁村の疲弊が行政が予測する以上の著しいスピードで進んでおるという御紹介が、混住化社会あるいは都市の郊外化などの概念を使いながら説明をされ、農山漁村、コミュニティーが残っていると言われるけども、もうそういうものもどんどん失われつつあると、これに対してどうするのかと、こういう御質問で、4点個別に質問がございましたので、あわせてお答えを申し上げます。
まず、農山漁村で暮らす人々にどのような定住所得対策を講ずるのかと、こういう御質問でございます。
やはり定住をされる、そこに住んでおられる方々の御子息などがそのまま住まれるということと、外からUIターンなどで来られて住まれると、2つのルートがあるわけであります。それから、いろんな理由でそういうふうに引き続き住まれる、新たに引っ越してこられる、あるわけでございまして、基本的にあらゆる手段、ルートを使いながら定住の促進を図っていくべきだと。そのためには、やはりその地にいて生活ができるということが必要でございますから、その地における職場の提供等々をやっていくと、これが基本でございます。
そして、議員の冒頭のお話にありましたが、特に戦後の都市化、工業化、あるいは交通、情報の急速な発展が農山漁村の相対的な役割を低くしていって、それが著しく進行してるということでございますが、他方で、近年の動きを見ますと、都市化が進み過ぎて大都市の過密あるいは生活のしづらさ、あるいはグローバリゼーションの中で日本の大企業等の相対的な役割の低下に伴ういろんな雇用の条件、生活の厳しさが大都市で起こっておって、地方に関心を持つ人も出てきておるというのが一つの現象でございます。今までなかった現象でございまして、私どもはそういう面も活用しながら、定住の促進、産業の振興をやっていくということでございます。
そういう意味で、定住につきましては、例えばUIターンで夫婦で来られるような方がおられます。そういう方々に対しましては、例えば半農半Xの職場を提供するように努める、あるいは住まいを手当てをする、あるいは農業をやりたいという人もいますから、そういう人たちを研修をする、あるいは農家で実地研修をする、そして営農される場合には土地の世話をする、販路の開拓を手伝ってあげる、あるいは在地の農家の方と一緒になって都市の人々が喜ばれるような農作物――農業を中心にしゃべっておりますけども――をつくっていくような支援をする。そして、県の役割でございますが、やはり実際のお世話をするのは市町村、さらに市町村の各地区でございますから、そういうところと連携をしながら県が支援をしていくと、これが大変大事な課題であろうというふうに思うわけであります。
そして、職の提供ということでありますと、いきなり大規模農業をやるということは難しいわけでございまして、小規模なものから行う、あるいは集落営農など、あるいは法人経営の農業に雇用されてそこで経験を積まれていく、いろんなやり方があるわけで、一概に言えませんけども、国のほうもそうした後継者の育成ということが大変大事だということで、今年度からそうした予算をつくりまして、自立できる間、当分の間でありますけども、かなりの所得を手当てをすると、保障をする、そういうことによって最初の厳しい段階を乗り越えれるように支援をする。県はこれまでもずっとやっておりましたけども、そういうことをさらに国の措置も活用しながらやっていきたいと思うところでございます。
それから、そうした適地が島根の中にたくさんあって、地域地域でそういう外からの人をお迎えしようということをやはり情報でよく知らせていくと、こういうことも大変大事でございまして、これもやっております。そして、最初の段階では試験的に滞在をされて地域の状況などを見られるという方がおられます。これは定住財団などでやっておりますが、実は定住財団なんか見ますと、その過程で土地の人と結婚して定住をされるというふうなことも起こってるわけでございます。
一概に言えませんが、あらゆるチャネル、方法を使いまして、地元の人が残るようにする、外の人が来られて定着をするようにする、先進県など、地域の提言などもよく研究しながら毎年そういうことをやってきてると、さらにその努力を続けるということが大事ではないかというふうに考えておるわけでございます。
それから、職ということ、職業ですね、ということですと、今の議員がおっしゃった都市化、工業化の反面に、自然食が大事だという若い人も非常にふえておるわけでございます。有機農法でありますとかそういうものも、小規模であってもかなり経営が成り立つような時代になっておりますし、それから、これまでは島根などは都市から時間的な距離が遠くて、それが障害になっておりましたが、いわば情報、交通手段も整備をされて、地方にいて小規模な生産でも販売でも販売が成り立つような時代になってきておるわけでございまして、一般論として言えば、いろんな工夫をしながら努力をしていくと、そのために各地であるいろんな先進事例を取り入れる、我々自身がいろいろ考える、これを一生懸命やっていくということが一番必要なことではないかというふうに思うところであります。

溝口善兵衛知事答弁(2)

農林水産業に対する施策の展開について

農業におきましては、そうした後継者を育てつつ、やはり消費者に好まれる商品をつくっていく。もちろん島根の斐川平野でありますとか能義平野等におきましては、大規模な稲作もやっておられる方がおられます。これも引き続きやって拡大をしていくと思いますけども、各地でいろんな工夫をして、消費者に好まれる商品づくりを行っていくと。有機農業の拡大が一つでありますし、しまね和牛の産地の再生化ということも一つの大きな課題でありますし、あるいは園芸産地の再生、ブドウ、メロン等におきましてもそうでございます。
それから、水産物につきましても、いろんな各地のブランド化をさらに進める、そういうことをやっていく必要があると。それを県なども支援をしていくということでありますし、それから地域の実情に合った担い手づくりということが大事でございまして、先ほど申し上げましたように大規模土地利用型の経営体の育成をするということも必要な課題でございますし、あるいは企業の農業参入を促進をしていく、これなどもイオンでありますとか中電工でありますとか、そうした県外企業などが島根で農業立地をするということもありますので、こういうこともさらに進めていきたいというふうに思いますし、中山間地域ではやはり例えば地域貢献型の集落営農組織をさらに拡大をしていく、ふやす、あるいは半農半Xの職場をふやしていく。
林業におきましては、やはり切って使って植えて育てるという循環型林業を推進していく、そのために県産材等の使用を促進する施策も必要でありますけども、国も循環型林業の推進ということで今年度からまた事業も拡大をして、県も単独事業でそういうことを支援をしようということであります。
漁業におきましては、経営の安定化、例えば浜田の沖合底びき網漁船の大規模改修を行う、あるいは消費者ニーズに合致した商品づくり等々、それから水産資源の維持再生のための対策が必要でありますが、内水面におきましては、議員も後でお触れになりますけども、シジミなどの水産資源の回復を図っていく、そうしたことを粘り強くやっていく必要があるというふうに考えておるところであります。
それから次に、少子高齢化、特に結婚ができない若者あるいはしない若者が非常にふえておると、そういう意味で、出会いの場をふやしていく必要があるというお話でございます。
そのとおりでございます。県としましては、企業や団体等と協力して、独身の男女に出会いの場を提供し、結婚対策に取り組んでおります。あるいは、はっぴぃこーでぃねーたーといった昔の仲介役のような方々も指定をして、できるだけ男女が出会える場をつくる、これも引き続きやっていきたいと思いますし、先ほど申し上げましたが、産業体験などで短期滞在をするUIターンの方々がこれまでに平成8年から23年までの間に615人ぐらい定住で定着をしておりますけども、そのうち100人弱の人が結婚をされておるということでございます。
これからも、市町村、地域の方々と相談しながら、農山漁村ならではのやり方を工夫してまいりたいと思います。最近では、邑南町の取り組みが週刊誌などにも出ておりましたけども、そうした取り組みも県下で広がっていくことを県としても期待をしますし、支援もしていきたいというふうに考えております。
それから、耕作放棄地の関係でありますけども、やはり中山間地域直接支払交付金等を活用して集落営農組織の育成支援を行うことによって、農地を効率的に維持管理をするということが大事でありますし、担い手そのものがいないところがあるわけでございまして、そういうところにおきましては、農林業者だけでなく地域住民や地域団体などが一体となって保全管理活動を推進してるところがあります。邑南町でありますとか益田市等でもそういう実例がありますけども、そういうものもふやしていく必要があるというふうに思います。
それから、携帯不感地域解消、IT化の進捗状況についての御質問でありますが、23年度末で見ますと、携帯電話が一社も利用できない不感地域は全世帯の0.3%となっております。世帯数でいいますと807世帯ぐらいになっておるということでございます。それから、光ファイバー等による超高速通信環境は、整備中の地域を含めまして94.1%の世帯をカバーして、全国の比率が95.1%でございまして、全国レベルに達しつつあるという状況であります。
一方、県内の一部市町村では、ICTを活用したシステムを導入し、さまざまなサービス提供が行われておりますが、全県的な広がりにはまだ至ってないということでございます。例えば奥出雲町では、テレビ電話を利用した高齢者の見守り支援、買い物支援をやったりしております。邑南町、海士町等でも、いろんな情報の提供などをITシステムでやっておるということでございます。このため、県では平成24年4月に島根県地域情報化戦略を策定しまして、過疎化、高齢化が進む地域が抱える課題を解決するため、ITの積極的な利活用を推進してまいります。
次に、コミュニティー維持のために、風土記編さん1,300年の2033年までをかけて息の長い県民運動を行ってはどうかという御提案でございますが、先ほど来申し上げておりますけども、こうした息の長い取り組み、島根の豊かな自然、古き豊かな文化歴史、そういうものを子どもたちが知り、そういうものに対する愛着を深め、そういうものがこの地に定着する、この地で働く、生活をする、そういうことにも関連をするわけでございまして、この活動は息の長い活動としてやっていく必要があるというふうに考えておりますので、御提案は一つの御提案として参考にさせていただきたいというふうに思います。

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