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江戸時代、公儀の学問所である昌平黌の儒官(総長)として、門弟3000人を数えた佐藤一斎は「一物の是非を見て、而て大体の是非を問わず。一時の利害に拘(かかわ)りて、而て久遠の利害を察せず。為政比(か)くの如くなれば、国は危し。」と説いております。
現代の日本の政情を見ますと、まさに「世論迎合」。政に担る者が世論調査の数字に一喜一憂、囚われた挙げ句、まさに目先の選挙の優劣やマスメディアの言に左右される様に、この国の、時に故郷の危機を感じるのであります。
内閣府の『自衛隊・防衛問題に関する世論調査』によりますと、20歳以上では「日本が戦争に巻き込まれる危険がある」と考える人の割合は72.3%で、平和ボケと言われている割には危機感を持っていると思われますが、「外国から侵略された場合」は「自衛隊を支援する」が49.6%「武力によらない抵抗をする」が23.0%「一切抵抗しない」が8.1%「自衛隊に参加して戦う」が6.2%などとなっています。
しかし中学生以上の未成年者では「安全な場所に逃げる」が44%「降参する」が12%「武器を持って抵抗する」13%となっており、凡そ独立国家としての精神的な備えがなく、国の行末が案じられるところです。
西郷隆盛は、「正道を踏み、国をもって倒るるの精神なくば、外国交際はまかるべからず、かの強大に萎縮し、円滑を主として、曲げてその意に従順するときは、軽侮を招き、好親かえって破れる。ついにかの制を受けるに至らん。国を凌辱せらるるに当たりては、たとい国をもってたおるるとも、正道を踏み、義を尽くすは政府の本務なり」と言っております。是非、この言をかみしめたいと思います。
それでは、まず、深刻な事態となっている松枯れについて、執行部の見解を質したいと思いますので、目先ではなく、百年の大計に立った観点からの答弁を期待します。
まず、松枯れについてお尋ねします。
過去、私は何回もこの問題を取り上げました。
出雲平野とりわけ簸川地域の築地松、出雲大社周辺の参道樹、浜山、長浜地域の防風林、北山地域の防災林、隠岐白島海岸の松など、私たちの周辺は、環境、景観ともに松は切っても切り離せないものであり、その必要性や保護対策についての認識については従前からお示しをいただき、その都度、確認をしてまいりました。結果、防除や被害木の除去に必要な予算措置も行われておりますものの、一向にその実は挙がらず、近年、とりわけ、本年、被害は飛躍的に増大し、今や、島根の松は全滅寸前の状況です。
出雲市多伎町から湖陵町を経て出雲大社に至る「くにびき海岸道路」は、国引き神話にある「園の長浜」にあたる地域で、海岸線は幾重にも松の防風林が続く地域ですが、いま、その地域を車で通行いたしますと、胸が痛み涙が出てきます。夥しい松が枯れ、無惨な状況を呈しています。そして、そこから北山、とりわけ鼻高山、弥山を瞻仰しますと、出雲市の日下周辺から出雲大社にかけて真っ赤に枯れ果てた松林が目に入ります。
松枯れは伝染病ですから、伝染経路を絶たなければ蔓延を防止することはできません。鳥インフルエンザや口蹄疫などの発生時に隔離、薬剤による徹底消毒、焼却、埋却などの防疫がされたように区域内の住民の協力を得て、短期間に徹底対応をする以外に有効な対策はないのです。
岩肌の急峻な斜面を背にした家屋が続く出雲市の北山地域の住民は、松枯れによる土砂崩落、斜面災害の危険に怯え暮らす毎日です。簸川平野の築地松はいまや消失寸前で、長浜の防風林は枯れ、その危機は浜山、出雲大社に迫っています。一時の批判をおそれ、防除を中断し、薬剤の樹幹注入と伐倒駆除では松枯れを防止することは到底不可能であることを承知しながら、適切な対応を執らない姿勢は末代に禍根を遺すものでありましょう。
私はいたずらに薬剤散布を続けることは是としません。薬剤散布によって当面の松枯れを防止し、マツノザイセンチュウを媒介するマツノマダラカミキリを根絶するために、国に不妊虫放飼を求めるべきだと思うのです。これは、かつて沖縄周辺でウリミバエによって農作物に深刻な被害が発生した際に採用された方法で、ある程度の時間と費用は必要ですが、確実にマツノマダラカミキリを根絶させることができると思います。
そこでお尋ねするのですが、一般的に伝染病の拡大防止に必要な視点とは何でしょうか。また、現在、薬剤の樹幹注入と伐倒駆除で対応されている松枯れ対策で松が守れるとお考えになっているのかお尋ねいたします。
次に、新たな松枯れの状況の把握と近年の松枯れ拡大の要因についてについてお尋ねします。
また、各地で抵抗性マツの植栽が行われていますが、その効果と状況についてお示し下さい。
斜面を背にした岩肌の露出する地域については樹種転換は難しいことから、抵抗性種であるクニビキマツの植栽が行われています。しかし、これを成木と育てるためには、有効な防除をする必要がありますが、どのような対処をお考えになっていますか。
さらに、懇談会等で述べられた枯れマツを伐倒し、樹種転換をするとの方針が示されてきましたが、松に変えて何を植え、どのような森林づくりを起案されるのか、その行程とコスト、現状についてお示し下さい。
出雲平野とりわけ簸川平野の築地松景観は様変わりの状況ですが、昭和50年から現在まで大凡10年ごとの状況について、出雲市の浜山、長浜、西浜や大社町の湊原など防風林の状況、隠岐の島町白島海岸の状況も併せてお示し下さい。
また、昨年から古事記編纂1300年や出雲大社大遷宮に向けた秋景対策として枯れ松の処理が行われていますが、島根半島の国立公園、県立公園内の枯れマツの材積と伐倒、処分に要するコストおよび新たに枯れた松についてはどのような対処を考えているのかお尋ねします。
知事にお尋ねします。島根の松景観は危機にあるとの認識をお持ちですか。また、子々孫々に遺すべきものとお考えですか。そのためには何が必要だとお考えになりますか。
さらに、この際、誤った政策を改め、一定の期間を定めて住民に協力を求め、薬剤の空中散布または地上散布による防除復活の検討と、国に不妊虫放飼を求めるなど、県が主導して、思い切った対策を講ずるべき時だと思いますがいかがでしょうか。
│掲載日:2012年09月24日│
御指摘のように、出雲大社の周辺や浜山公園の松林、出雲平野の築地の松などの景観は、島根県にとりまして、将来にわたり残すべき貴重な景観、貴重なものであるというふうに思っております。しかしながら、御指摘のように、近年、松枯れ被害が急速に拡大をしております。このため、関係市町村は、地元住民の声も聞きながら、地域の実情に応じ、松くい虫の防除対策を講じてきております。
県としましては、こうした地域の取り組みに対してできる限りの支援を行っていく考えであります。
他方で、松くい虫被害対策は、その地域の方々の理解と協力のもとに行うことが必要であります。例えば、出雲市におきましては、空中散布後の住民の健康被害を受けまして、地域住民も参加した検討会で松枯れ対策をどうするかという協議をされてきております。最近では、平成20年12月に、松くい虫防除対策基本方針をつくられました。さらに、今年3月には、松くい虫対策森林再生等基本方針を策定されております。この3月の基本方針では次のようになっております。
3点主要な柱があります。第1は、空中散布については絶対の安全性が確立されるまでは実施しないこと。第2は、樹幹注入、幹への注入、それから伐倒駆除、抵抗性のある松などの植栽により防除対策を実施すること。第3点は、樹幹注入ができない小さい小径木と言っておりますが、松については、地上散布を実施すること。こうしたような3つの基本方針を定めてやっておられるわけであります。
しかし、議員は県がもっと長い視点から対応の強化を図るべきではないかと、こういう御指摘であります。私もその点は共感できるわけでございます。出雲市など、関係市町村とともに、話し合いの上、専門家も交えて、例えば御指摘ありました不妊虫放飼のような防除方法、あるいは松くい虫の被害の跡地をどういうふうに再生していくかなど、総合的に協議、検討するような場をつくってはどうかというふうに考えておるところであります。やはり地元の意見をよく聞きませんといけませんので、そういうことをしながら、長い目でもどういうことが可能なのか検討していくということが大事な課題ではないかというふうに思います。
これに関連しまして、議員御指摘の不妊虫放飼のマツノマダラカミキリへの応用であります。沖縄ではウリミバエについて不妊虫を放飼をするということで成果が上がったということでございます。この点につきましては、私どもも森林総合研究所でありますけども、そこに照会をしましたところ、次のような見解でありました。
沖縄のウリミバエの場合は、年8回の産卵と世代交代が非常に速い。そして、離島という空間であったというふうなことがあって効果があったようだが、マツノマダラカミキリは、年1回の産卵であり、また不妊化した●松●の死亡率が高い上、生存期間も短いことなどから、大量の人工増殖は困難ではないかというふうに言っておられます。また、離島と違いまして、本州は虫が動くわけでありまして、広大な地域では膨大な費用と相当な期間を要するということでございます。したがいまして、この問題につきましては、さらに専門家の意見をよく聞きながら、検討していくべき課題ではないかというふうに思うところであります。
一般的に、伝染病の拡大防止には、発生前の予防対策と病原体の蔓延防止対策が必要になります。松くい虫被害の場合は、まず予防対策としては、薬剤散布により健全木を対象にマツノマダラカミキリの成虫を駆除する方法や、薬剤の樹幹注入により侵入してきたセンチュウ、これマツノザイセンチュウでございますが、これを駆除する方法がございます。蔓延防止対策としましては、被害木を伐倒して中にいるマツノマダラカミキリの幼虫やさなぎを被害木と一緒に薫蒸して駆除する方法がございます。
松林を保全するためには、被害率を1%以下に抑える必要があります。予防対策と蔓延防止対策とを組み合わせて、適時適切に実施することが重要であると考えております。
この樹幹注入と伐倒駆除を組み合わせた対策につきましては、地形や松の樹齢の状況から対応できないところもございますが、こうした対策を実施できた防風林や出雲大社参道、日御碕の松につきましては、被害率が0.9%と保全効果が確認されているところでございます。
今年度の松くい虫被害の状況は、市町村担当者からの聞き取りによりますと、全県の被害量は昨年度と同程度の12万7,000立方メートル前後と推定しております。また、被害量の約9割を占めます出雲市では、築地松など平野部の松にも被害が拡大している状況にございます。
近年の松枯れ拡大の原因は、薬剤の空中散布の中止や夏の異常高温と少雨等により松の抵抗性が弱まったことによるものと考えられます。加えて、急峻な地形や労働力の制約で伐倒駆除で処理し切れなかった枯損木がマツノマダラカミキリの発生源となりまして、被害拡大に拍車をかけたと考えられます。
抵抗性松は、島根県が県内の松くい虫激害地で生き残った松の枝を接ぎ木により育て、これにマツノザイセンチュウを接種する試験を行い、これによって選抜した品種で、平成19年から林業種苗生産者に種子供給を開始し、平成20年からくにびき松として苗木の供給を開始しています。抵抗性松は現在、知夫村、出雲市、益田市で現地に植栽し、追跡調査を行っています。このうち知夫村、益田市では枯損木は発生しておりません。出雲市では、一部被害が認められておりますが、植栽後、5年を経過した時点で、在来種の被害率16%に対し、抵抗性松は7%と被害率が低いことが確認されております。
抵抗性松であるくにびき松につきましても、松くい虫被害を全く受けないわけではございません。抵抗性松の植栽前に感染源となる松くい虫枯損木を全て除去しておくことが重要であると考えております。
松は、風、潮、乾燥など他の樹種の生育が困難な厳しい環境下でも生育する樹種であり、海岸等の松くい虫被害跡地の植栽につきましては、一般的に抵抗性松が適していると考えております。また、出雲北山山地など松の人工林地の被害跡地には、広葉樹を植栽することにより混交林化することも考えられます。これらの樹種転換に要する経費は造林事業の標準事業費の算定上、1ヘクタール当たり3,000本植えで200万円程度となっております。
松くい虫被害跡地のうち森林管理が可能な箇所につきましては、当該跡地を含む森林の団地化を行って、森林計画の策定から進める必要がございます。樹種転換の方針を出された出雲市におきましては、現在、松くい虫被害跡地の再生を含めた森林計画の策定について検討がなされているところでございます。
浜山、長浜、西浜、湊原の防風林の被害状況につきましては、データが確認できております昭和62年を基準に被害量と被害率の推移を見ますと、平成13年度までの10年間で延べ被害量4,536立方メートル、被害率9%であったものが、平成22年度までの20年間では、延べ被害量1万1,328立方メートル、被害率23%となっておりまして、被害が拡大していることが推定されます。また、地域別に見ますと、浜山など内陸部に比べて、長浜、西浜、湊原など海岸林での被害が大きいということがわかっております。
白島海岸があります隠岐の島町西村地区は、町の空中散布対象地区の一つとなっておりますが、この地区におきましても、単年度、100から300立方メートルの被害の発生が見られます。近年は、空中散布を制限している人家周辺や道路沿線などでの被害が目立っております。また、国立公園特別保護地区のため、空中散布ができない白島海岸の先端部でも、昨年あたりから被害が発生しておりまして、今年度、隠岐の島町が伐倒駆除を実施する予定であると聞いております。
島根半島の国立公園、県立自然公園内、これは全体の面積の約20%でございますが、こうした公園内の枯れ松の材積は累計で8万3,310立方メートルと推定されます。これは昭和50年以降の累計でございます。枯損木の処理に要する費用につきましては、自然公園内のため、作業道の開設や河川による搬出ができないことから、現地で伐倒、玉切り、集積をすることとした場合、1立方メートル当たり1万9,500円かかります。したがって、全ての枯れ松が現在も残っているものとして試算いたしますと、処理に要する費用は16億2,400万円と推定されます。
なお、公園内で新たに枯れた松の処分につきましては、関係部局と連携を図りながら、中国自然歩道など人的被害が懸念される箇所から重点的に伐倒、薫蒸処理を進めることとしているところでございます。
簸川平野の築地松につきましては、平成2年に斐川町が、また築地松景観保全対策推進協議会が平成6年と平成11年の合わせて3回の調査を実施されております。これらの調査では、昭和50年以前は築地松の所有世帯は約2,500世帯、松の本数は約1万5,000本あったのではないかと推計されております。昭和50年代中ごろから松くい虫の被害が増大し、昭和60年までに約5,200本の松が伐倒され、松の本数は約9,800本となり、約3割の減少となっております。平成6年には、所有世帯は約2,000世帯に減少し、また昭和60年から平成6年までの9年間で約3,400本の築地松が伐倒され、本数は6,400本となり、昭和50年からの約20年間で約6割の減少となっております。平成11年には、所有世帯は1,300世帯とさらに減少いたしましたが、築地松の本数は約7,600本と微増しております。これは築地松の苗木配付などの保全活動や所有者の皆様の御努力によるものではないかと言われております。
なお、出雲平野全体の築地松につきましては、昭和50年以前は約4万本あったものが、平成6年には約2万1,000本と半減いたしましたが、平成11年には約2万2,500本と微増したとされております。
平成11年以降の状況につきましては、先ほどの3つの調査のような全般的な調査がされておらず、築地松景観保全対策推進協議会の事務局である出雲市にも確認しましたが、把握していないということでございました。ただし、同協議会が松くい虫による枯れ松の伐倒に対して助成を行っており、これにより確認できた平成19年度以降平成23年度までの5年間で、出雲平野全体では約1,500本が伐倒されております。そのうち平成23年度1年間で約1,100本と約7割を占めており、23年度以降急増している状況でございます。また、今年度につきましては、8月分までが168本と昨年の同時期の31本より大幅に増加している状況でございます。