県議会だより

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平成26年11月定例島根県議会一般質問(3)

ハンセン病に見る人権侵害事象に対する啓発について

ハンセン病は皮膚と末梢神経を主な病変とする抗酸菌感染症で、現在は途上国を中心に患者がいるものの、日本では毎年数名の新規患者の発生で、過去の病気になってきている。
感染症法の前文には「我が国においては、過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓とし て今後に生かすことが必要である。」と記載されているように、従来、ハンセン病は「らい」、「癩」などと呼称され、偏見・差別によって、罹患した人たちを苦しめた。
らい予防法の廃止(1996年)に伴い届け出制度はなくなったが、日本ハンセン病学会が行う新規患者の調査によると、日本の新規患者は毎年、日本人は数名、在日外国人が若干名とされ、日本人では沖縄県出身者が半数を占めており、新規患者の減少は著しく、かつ高齢化している一方、在日外国人患者についてはブラジルなどの患者の多い国からの出身者が目立ち、若者が多い。 日本は衛生環境や栄養、経済などの向上により、日本国内で新たに感染・発病する心配はなく、世界ではインド、ブラジル、インドネシア、ナイジェリア、エチオピアなど年間約23万人の新規患者がいる。
1998年(平成10年)7月、熊本地裁に「らい予防法」違憲国家賠償請求訴訟が提訴され、翌年には東京、岡山でも訴訟が提訴された。2001年(平成13年)5月11日、熊本地裁で原告が勝訴し、政府は控訴をせず、6月には衆参両院で「ハンセン病問題に関する決議」が採択され、新たに補償を行う法律もできた。
国は患者・元患者に謝罪をし、2002年(平成14年)4月には、療養所退所後の福祉増進を目的として、「国立ハンセン病療養所等退所者給与金事業」を開始、啓発活動を積極的に行うなど、名誉回復のための対策を進めているが、必ずしも十分だとは言えない。
本県では島根県藤楓協会が中心となって、療養者の慰問や里帰りなどの支援活動がされ、人権啓発を所管する環境生活部が県民広報を、教育委員会が学校教育での取り組みを行っていると聞くが、取り組みは不十分で、その実態を指摘してこなかった県議会もその一端の責任を有していると思う。ここに、関係者の皆さんにお詫び申し上げるとともに、時間は極めて限られているものの、可及的速やかに取り組みを進めるべきと思う。

県庁職員の研修や教員の研修で取り上げられることはなく、全国13箇所の療養施設の見学や島根県出身者が暮らす療養施設の慰問もほとんど実施されないなど、行政が作り出した人権蹂躙事象に対する取り組みは極めてお粗末であると聞くが、現状の問題点についてどのように認識しているか。(環境生活部長)

県職員、教員の研修はどのようにされてきたか。(総務部長、教育長)

県は環境生活部、健康福祉部、教育委員会など、取り組む主体がバラバラで、系統的な対応がされているとは言えないと見るが反省すべき点はあるか。(環境生活部長)

ハンセン病療養者や過去の人権蹂躙についての対策については時間が極めて限られているが、まず初めに行政に携わるものがきちんと歴史を認識しなければならない。その上で、一般県民や学校教育で取り組むべきだが、現状は、民間啓発がはるかに先行している。今後の対応についてどのように取り組みを進めるか。(総務部長、教育長)

楫野弘和総務部長答弁

ハンセン病問題についての県職員に対する研修の実施状況について

私からは、ハンセン病問題についての県職員に対する研修の実施状況と今後の対応についてお答え申し上げます。
県の各職場では、年2回以上、人権同和問題研修を実施いたしております。平成25年度には、14の職場、全体の6%になりますが、ハンセン病問題をテーマとした研修が実施され、379人が受講しております。また、各職場で研修を企画する職場研修推進員に対しましては、ハンセン病問題をテーマとした講演が実施されており、平成25年度と平成26年度で合わせて74人の推進員が受講しております。
ハンセン病問題は、行政による極めて深刻な人権侵害であり、このことを県の行政を担う県職員全員が正しく認識することは極めて重要であります。しかしながら、これまでの職場研修は、県職員全員が受講できる環境となっておらず、不十分なものであったと考えております。そうした観点から、県職員一人一人がハンセン病問題について学ぶことができるよう、関係部局と連携し、自治研修所で行う職員研修を含めさまざまな研修の中に組み入れてまいります。

鴨木朗環境生活部長

ハンセン病の人権問題に関する現状の問題点について

ハンセン病の人権問題については、限られた時間の中で、次のような取り組みを急ぐ必要がございます。1点目は、ハンセン病の元患者の方々の名誉、尊厳を回復し、社会とのきずなを結び直す取り組みが急がれます。2点目は、家族、親族が今なお元患者の方々のことを周囲に話せない、そういう実態もある中で、差別意識の払拭に向けた啓発、教育を徹底する必要があります。3点目は、ハンセン病問題という極めて深刻な人権侵害の反省に立って、行政が二度とこのような人権侵害を引き起こすことのないよう、法制度面の手当てや啓発、教育など、行政がとり得るあらゆる手段を総動員して問題の風化を食いとめる必要がございます。
この課題に対処するための取り組みの必要性につきましては、議員御指摘のとおり、元患者の方々の高齢化が進む中、いわば切迫した状態にあります。しかしながら、行政の責務を具体的に遂行していかなければならない立場にある県職員や教職員にこの切迫感が共有されているかという点について、問題を抱えていると考えます。
次に、部局間の連携に関する反省点についてお答えをいたします。
島根県の人権施策は、それぞれの人権課題に応じまして、主担当となる部局を定めた上で、県の組織全体で推進しております。また、部局間の分担と連携のあり方を含めた総合調整につきましては、環境生活部が担っております。
ハンセン病の人権問題につきましては、ハンセン病問題基本法、法律の正式名でいいますと、ハンセン病問題の解決の促進に関する法律といいますが、これは平成21年に施行された法律でございます。この法律を所管します健康福祉部では、島根県藤楓協会と協働して、主に里帰り事業や、療養所の訪問などの交流事業、啓発、教育に関する科学的知見の領域を担当しております。また、環境生活部は、施策の総合調整と県職員への研修、県民向け広報紙の発行や啓発イベントの開催を担当し、教育委員会は、教職員への研修と児童生徒の学校教育、保護者等の社会教育を担当しております。
しかしながら、先ほど述べましたとおり、行政が引き起こしたハンセン病に関する人権侵害、この厳しい実態と対処の切迫感につきまして、県職員や教職員に十分認識が行き届いておらず、またこのことが県民への啓発、教育の現状にも影響を及ぼしていると考えられます。このような問題を生じた原因につきまして、現在、関係する3部局で検証を行っているところではありますが、やはり人権施策に関する総合調整を責務とする環境生活部において、組織全体に切迫感の共有を求めるリーダーシップの面や、職場研修に対する支援の力量の面で、至らぬ点があったものと考えます。
元患者の方々、島根県藤楓協会を始めとする関係の皆様におわび申し上げますとともに、議員の御指摘を糧といたしまして、今後の施策に生かしていかなければならないと考えます。まずは、療養所での現地研修に派遣する職員の数をふやすことから着手をしたいと考えております。

藤原孝行教育長答弁

ハンセン病問題に対する教員の研修について

県教育委員会は、以前から、島根県藤楓協会、健康福祉部と共催で、人権教育にかかわる指導者を対象としたハンセン病療養所訪問研修を実施してきており、毎年10名から20名の教職員が参加しております。また、一部の学校においては、講師を招いた研修を行ったり、自主的に学校単位や個人でハンセン病療養所に出かけ、資料館の見学や入館者の方との交流を行ったりしております。しかし、これまでの療養所訪問研修や校内での研修などの取り組みだけでは、全体への理解の広がりが不十分であり、さらに研修を進めていく必要があると考えております。
県教育委員会としては、ハンセン病療養所入所者が高齢化している現状を踏まえ、ハンセン病問題のような人権侵害を二度と引き起こさないために、この問題を教訓として、教職員への正しい知識の普及及び児童生徒への指導の充実を図っていかなければならないと考えております。現在、教職員を対象として、先ほども言いましたけども、島根県藤楓協会、健康福祉部と共催で行っておりますハンセン病療養所への訪問研修、これに加えて、教育委員会主催の療養所訪問研修を実施したいと考えております。また、全ての小中高、特別支援学校の人権同和教育主任を対象とした研修会において、ハンセン病問題に対する正しい認識を深め、児童生徒への学習の進め方について指導することとしております。そして、療養所訪問研修や人権同和教育主任研修に参加した教職員が、その成果を職場内に広げ、児童生徒の指導に生かしてまいります。

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