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地方の生産物は消費地の市場へ供給するために、物流コストを要しますが、長距離トラックの事故や働き方改革を機に運送料金が高騰し、市場や元請など、納入先から離れている県内の事業者は、輸送コストの上昇で採算悪化に直面しています。加えて、コロナ禍による需要減が産品の市場価格を低迷させており、厳しい状況にありますが、県産品の生産状況や採算の状況についての認識についてお尋ねします。(農林水産部長・商工労働部長)
1次産業(農林水産業)の産地にとって、輸送運賃の値上げは物流コストの上昇につながりますが、それを販売価格に転嫁することは容易ではないことから、生産者所得を減少させるという結果を招いています。特に、大都市市場への直送体制をとっていた遠方の産地にとって、トラック運賃の上昇は、致命的な打撃になりかねず、大都市市場から近隣の市場へ出荷先を変更する動きが強まっていますが、大都市の市場に比べて受け入れ収量が限られており、値動きが激しという難点があります。
これを解消する1つの手立てとして考えられているのが、地方市場のネットワーク化とトラック輸送から鉄道・フェリーなどに輸送方法を変更するモーダルシフトで、物流コストを縮減する大きな手掛かりです。すでに、大手スーパーなどでは物流を地方分散させる取り組みを進めていますが、相対的に物流時間が長くなり、鮮度保持等の取り組みが不可欠となっており、コンテナ化や低温倉庫、保冷車などの整備が進んできたのはこのためです。
物流費の高騰は産地だけの問題ではありません。インターネットで商品の注文を受けて、各家庭に宅配する「ネットスーパー」も配送コストが高騰し、事業収支が赤字になる企業が出てきており、コロナ禍で増大する需要と物流コストが採算に大きく直結する課題になっているのです。
物流コストの問題は、例えば、島根県の農産品を例にとると、搬入する市場が山陽や京阪神、中京、関東などであり、トラック便を立てると、多くは帰り荷がないために、往復の運賃を支払うハメになっています。トラックターミナルの必要性について同僚議員の指摘がされているところですが、至当な提案で、必要性についてどのようにお考えですか。(知事)
島根県の場合、市場となる都市近郊の事業者と競争するためには、生鮮品の場合は鮮度保持、農産品の場合は品質と安全性は生産技術や資材の開発などでカバーしてきました。
しかし、時間と距離のコストは如何ともし難く、これを低減させるのは高速化による時間短縮と温度管理による鮮度保持(劣化の防止)で、高速道路の整備や航空路の整備などは着実に進められてきてはいますが、高速道路や航空路の利用にはそれなりのコストを要します。低温輸送はイニシャルコスト、包装資材の活用はランニングコストを要するので、それを吸収するためには、どうしても一定のコストを価格転嫁するしかありません。県は、そうした課題の解決のために、ブランド化や有機、GAPの導入など有利販売に資する対策を進めてきましたが、折角の対策が物流コストで相殺されてしまうのは残念で、物流対策について真剣な議論を行い、有効な対策を講じなければならないと考えますが、知事の所見を求めます。(知事)
│掲載日:2021年03月01日│
県内の荷主であります生産者や製造業者がトラック便を利用する形態は、荷の大きさや出荷量によりまして2つに大別されております。出荷量が小規模であるため、宅配事業者の混載便が利用されるケース。もう一つが、出荷量が一定規模以上であるため、荷主専用のチャーター便が活用されるケース、この2つであります。宅配業者の混載便の場合は、輸送計画を事業者に委ねることとなるために、納期に関してデメリットがありますけれども、帰り荷の確保を意識する必要はないということであります。一方で、チャーター便の場合は、輸送計画を荷主側で設定されるために、納期に関しての心配はございませんけれども、逆に帰り荷の有無が運賃に直接影響するということで、帰り荷の確保が課題となります。荷主側で往復の荷を確保できるケースを除けば、運送事業者側で荷主から提示された条件を踏まえた輸送計画を検討し、帰り荷の有無を考慮した価格が提示され、荷主はその価格やサービスを基に運送事業者を決定することとなるわけであります。
したがって、運送事業者は、自社や提携先などの様々な流通ネットワークを活用しながら、帰り荷を確保し、トラックの稼働率を向上させるなど、物流の効率化を図られているところであります。
また、物流の形態によっては、荷主によって荷の大きさ、数量、出荷場所や出荷時期、出荷日時、配送場所や納期、輸送適合温度など様々でありまして、輸送事業者の規模も様々であることから、物流の効率化に求められる取組もそれぞれ異なっております。
さらに、効率化によって生じる利益の使途につきましても、各事業者が抱える課題によりまして、トラック運転手等の労働条件の改善やトラックや倉庫などへの設備投資、運賃の引下げなど様々であるというふうに考えられますので、必ずしも効率化によって生じる利益が生産者のコスト軽減に反映されない場合もあると考えます。
こうした中で、効率化の手法としてトラックターミナルを検討する運送事業者があれば、そうした運送事業者が連携して、拠点の場所や規模、整備手法を検討されることが第一であるというふうに考えているところでございます。
農産物物流コストの上昇は、農業経営の大きな課題であると認識いたしております。県としては、農林水産部に販路開拓室を設置し、小売業者や物流会社などと連携した新たな流通網の構築を進めております。具体的な事例を申し上げさせていただきますと、関東地方で複数同店舗を展開する小売事業者と連携し、県内の農場で集荷した有機農産物を関東地方にある同業者の配送センターまで直送する取組、また東京の高級スーパーと取引のある仲卸業者の物流網を活用して、県内の美味しまね認証品をまとめて輸送する取組の2つの実証実験を行いまして、いずれの場合も宅配便を活用した従来の物流と比較いたしまして、2割から4割のコスト削減を確認しているところであります。引き続き、より多くの産地や担い手の方々の地理的なハンデを軽減できるよう、効率的な物流網の構築、工夫に取り組んでいきたいというふうに考えております。
農産物の輸送コストについては、JAや農業者からの聞き取りで、品目によっては大阪や広島向けのキロ当たり運送料がこの二、三年で1.5倍以上に上昇している。あるいは、庭先集荷が可能な宅配便による県外への配送コストが数年前の運賃改定で2倍になったという情報が寄せられております。例えば、キャベツでは、出荷運送料が小売価格の約1割を占めるなど、特に青果物では価格に占める輸送コストの割合が小さくないことから、輸送コストの上昇は経営に少なからず影響を与えるものと考えております。
市場価格については、県内6青果市場の野菜全体の平均単価では、昨年4月から10月までほぼ対前年以上となっている一方で、牛肉の枝肉価格はほぼ同じ時期に対前年比で1割以上下落した期間が半年以上続くなど、品目によって差が大きいと認識しております。
荷主である県内製造業者等への聞き取りによりますと、輸送運賃は出荷量や輸送頻度などにより契約形態や運賃設定が様々でありますが、半数程度の事業者からここ数年で1割程度上昇しているとの回答がありました。一方で、コロナ禍の影響による出荷量の減少が運送事業者間の受注競争の激化につながり、輸送運賃が低下傾向にあるとの情報もあります。
ただ、今後の運送事業者の人材確保や働き方改革への対応に伴い、輸送運賃は上昇していく環境にある中で、消費税等の制度的な要因と異なり、元請に対して比較的価格転嫁が難しく、県内製造業のコスト増の要因となるため、さらに情報収集に努めてまいります。
また、県内製造業者はコスト吸収力や価格転嫁できる力の必要性が高まることから、一層の生産性の向上や競争力強化に取り組む必要があり、引き続き支援を行ってまいります。