和而不流(和して流れず)
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年頭所感 2013
「生の意義」を考える
『足ることを知る者は富めり。強めて行う者は志有り』老子(中国・春秋時代の思想家)
(意訳)
「足るを知る」ことの価値を知ると今が幸せだと思うことができる。「志をもって努力する」ことの価値を知ると、さらなる幸せを目指して、生き生きと生活できる。
人間は欲深く「足るを知る」ということがありません。ほぼすべての人間がものに飽かされるということを知らず、お金や物は言うにおよばず、名誉や名声、地位、権力などを求めて奔走していると言っても過言ではありません。
私たちが生きるために必要な知識は、家庭や学校、職場などで「世間知」という形式で身につけることが可能ですが、「生の意義」は、正統の宗教や哲学に触れて自ら学ぶことをしなければ習得することはできません。
人間が現世で生きていく上で、一番に優先されるべき事は、自己の生命を維持することで、寿命が尽きるまで無事に生き抜くために、日々の生を安心して安全に暮らすことが重要です。そのためにこそ、人は働いて金を稼ぎ、生活に必要なものを購って、肉体生を維持していくのですが、生の意義を知らずに物欲的な生を続ければ、精神進化は停滞し、他の動物と同様になってしまいます。
人間の進化は「豊かになりたい」と言う欲求の歴史でもありますが、ともすれば意識の本質や普遍性を離れ、把握しやすい具象的な世界で満足の度合いを計るため、際限のない物欲が生じて現状に感謝し、満足することができなくなっていると思います。
仏教では貪瞋痴(とんじんち)を「心の三毒」としています。貪とは、むさぼること。貪欲に動物的欲求や物欲、あるいは金銭欲などを際限なくあれこれ欲することで、瞋とは、感情をぶちまけること。不快なものに対して激しく怒ったり、妬んだり、恨んだりすることです。痴とは、無知であること。自己弁護に走ったり、常識知らずで自己利益しか考えないようなことであり、貪瞋痴は、貪欲だったり、感情の抑制が効かなかったり、また自分勝手なさまを表した人間の愚かさ、弱さを表した言葉でしょう。
経典には、三毒を克服するために日常心すべきことを「『喜んで人の役に立つ』『驕らず質素でも笑顔の絶えない環境に暮らす』『感情に流されず人が良い方向に行くように諭す』『愚かな結果を招くような言動を慎しむ』」と教えています。昨年、世界的な東洋思想史の研究者であった中村元博士の業績を後世に伝え、その蔵書を収める中村元記念館が縁の松江市に開設され、身近なところに高僧をはじめ哲学研究者の問答にふれる環境が整いました。
小生も、孫が生まれ、いよいよ老境に足を踏み入れる身上となりました。貧富強弱に拘わらず、生を受けた者は必ず死にますから、ヒトの死亡率は100%。折りにふれて、来し方を自省する機会が多くなってきたように思いますので、生の意義について学び、自らの死生観について考えるとともに人としての生き方、死に方を見つめる年にしたいと考えています。
│掲載日:2013年01月03日│
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